【GAPファンド・中国・四国】PSIの採択課題と研究テーマ

【GAPファンド・中国・四国】PSIの採択課題と研究テーマ

「GAPファンド」は、大学の研究者や学生が起業する前に、研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる、公的プログラムです。JST(科学技術振興機構)が中心となり、全国の地域組織が公募と審査を担います。中国・四国では「PSI(Peace & Science Innovation Ecosystem)」が「PSI GAPファンド」を運営し、2025年度はステップ1で24件、ステップ2で8件を採択しました。本記事では、ステップ1の採択課題から8件を紹介します。

1.GAPファンドとは?

GAPファンドの役割を示す図。研究の段階の科研費など、研究と事業化の間のGAPファンド、起業の段階のVC出資などの順に並び、GAPファンドは大学の研究者や学生が起業する前に研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる公的プログラムだと説明している

「GAPファンド」(ギャップファンド)の「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。学術研究を支える「科研費(科学研究費助成事業)」や、設立後の企業に投資する「VC(投資会社等)」とは異なり、GAPファンドは起業前の研究者が行う試作や市場調査といった事業化の検証に充てられます。制度によっては、資金に加えて、起業に詳しい人材や投資機関から伴走支援を受けることも可能です。

GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。

2.PSI GAPファンドの特徴

PSIの特徴を示す図。左の参画団体のカード:中国・四国の18大学が参画する起業支援のプラットフォーム、大学(主幹:広島大学、岡山大学、島根大学、愛媛大学、徳島大学、ほか、計18大学)、企業・団体(事業化推進機関:50社、VCなど)。右の資金・起業支援のカード:ステップ1(最大500万円/1年以内、5つの領域で同じ金額、研究者と大学院生が応募できる)、ステップ2(最大6,000万円/1件、事業化推進機関との共同申請、農・食と社会課題は最大3,000万円)

中国・四国の18大学が参画

「PSI」は、「広島大学」を主幹機関とし、中国・四国の大学が参画する起業支援のプラットフォームです。2026年度の公募では、「岡山大学」「愛媛大学」「高知工科大学」など18大学の研究者と、修士・博士課程の学生が応募の対象になりました。審査は5つの領域に分かれ、大手企業やVCも審査会に参加します。ステップ2の申請相手となる「事業化推進機関」には、ベンチャーキャピタルなど50社が登録されています。

ステップ1とステップ2の募集枠

2026年度の公募によると、「ステップ1」の上限は1件あたり500万円、研究開発期間は1年以内で、5つの領域で金額は同じでした。「ステップ2」の上限は、バイオテック、ヘルステック、ディープテックの領域が6,000万円、アグリ・フードテックとソーシャルインパクトの領域が3,000万円に広がります。ステップ2に申請するには、事業化推進機関との共同申請が必要です。

3.PSI採択プロジェクトの例

PSIの採択プロジェクトの例を編集部が分野に分けた図。医療・創薬は川崎医科大学の膀胱がんの再発を防ぐ治療と広島大学の副作用の少ない前立腺がん薬、電子・情報は島根大学の石英基板の集積回路と広島市立大学のAIによる外観検査、材料・エネルギーは岡山大学の5分で80%充電する電池材料と高知工科大学の多元素の合金、食品・農業は岡山理科大学の100℃で働く酵素と広島大学のスマホで牛の体重を推定する技術

「PSI」では、様々な分野のプロジェクトが採択され、「大学発ベンチャー」の設立をサポートしています。本記事では、研究テーマと採択枠を、医療・創薬分野2件、電子・情報分野2件、材料・エネルギー分野2件、食品・農業分野2件紹介します。

医療・創薬

1. 川崎医科大学|膀胱がんの再発を防ぐ

研究テーマ再発ゼロを実現する次世代膀胱がん治療プラットフォームの開発↗
所属・大学川崎医科大学
採択枠2025年度 ステップ1 健康医療

筋肉の層まで広がっていない「筋層非浸潤性膀胱がん」は比較的早期に診断できる一方、再発率は70%、進行率は20%と高く、進行すると膀胱の全摘出が必要になります。「川崎医科大学」の研究チームは、薬剤で膀胱の上皮(内側を覆う細胞の層)を選択的に取り除き、再生医療の技術で正常な上皮細胞を移植する方法を開発しています。上皮を完全に置き換えて再発をなくす治療を、医薬品と細胞を組み合わせた製品として事業化する計画です。

2. 広島大学|副作用の少ない前立腺がん薬

研究テーマPSMAを標的とする副作用の少ない転移性前立腺がんの新規治療薬の開発↗
所属・大学広島大学
採択枠2025年度 ステップ1 健康医療

「広島大学」の研究チームが開発するのは、前立腺がんの細胞に多く現れる膜タンパク質「PSMA」を狙う低分子の薬物複合体です。薬はPSMAに結合して細胞内に取り込まれ、がん細胞に多い酵素「カテプシンB」の働きで抗がん剤を放出します。正常な細胞にはPSMAとカテプシンBが少ないため、副作用を抑えた転移性前立腺がんの治療薬として期待されています。非臨床試験で投与量などを決め、製薬企業へのライセンスアウトを目指します。

電子・情報

3. 島根大学|石英基板で集積回路を製造

研究テーマモノリシックSWIRイメージセンサの開発↗
所属・大学島根大学
採択枠2025年度 ステップ1 電子・情報・機械技術

「島根大学」の研究チームは、18mm角の石英基板を装置の中で移動させながら成膜や加工を進め、集積回路(IC)を完成させる製造設備の実現を目指しています。製造の途中で基板が外に出ないため、クリーンルームが不要です。シリコンやゲルマニウムなどの材料を使い、デバイスを3次元に積み重ねる「3D集積化」に取り組みます。まずは「FD-SOI-MOSFET」(トランジスタの一種)を使った回路を受託製造する事業を目指し、短波長赤外線(SWIR)のセンサーも開発します。

4. 広島市立大学|AIで製品の外観を検査

研究テーマ「光学 × AI 」で、誰でも使える「低・省・高」次世代外観検査プラットフォーム↗
所属・大学広島市立大学
採択枠2025年度 ステップ1 電子・情報・機械技術

中小製造業の外観検査は熟練者に頼る部分が多く、検査のコスト、人材不足、品質のばらつきが課題になっています。「広島市立大学」の研究チームは、少数のLEDを使う照明とAIを組み合わせ、1回の撮影で微細な欠陥を見つける「ワンショット外観検査」のシステムを開発しています。目標は、検出精度を5ポイント高め、検査工数を40%、消費電力を50%減らすことです。検査装置の販売・リースと、検査データを活用するサービスを組み合わせた事業を計画しています。

材料・エネルギー

5. 岡山大学|5分で80%充電する電池材料

研究テーマ超高速充放電を実現する革新的電池・キャパシタ材料の社会実装↗
所属・大学岡山大学
採択枠2025年度 ステップ1 環境・エネルギー・ナノテク・材料技術

リチウムイオン電池には、充電に時間がかかる、低温で出力が下がる、発火の危険があるといった課題があります。「岡山大学」の研究チームは、正極の表面に「チタン酸バリウム」系の誘電体を重量比で約1%付け、リチウムイオンを引き寄せて移動を速める材料を開発しています。5分で80%の充電、低温での稼働、高い安全性を、既存の生産ラインのまま実現できるとしています。電池セルは製造せず、材料の供給と特許のライセンスで収益を得る事業を構想しています。

6. 高知工科大学|多元素の合金を量産

研究テーマ革新的多元素触媒の生産技術基盤の確立↗
所属・大学高知工科大学
採択枠2025年度 ステップ1 環境・エネルギー・ナノテク・材料技術

水を電気で分解する「電解装置」などには、耐久性、設計の自由度、生産の安定性を同時に満たす金属材料が必要です。「高知工科大学」の研究チームは、多くの元素を混ぜた合金を独自の方法で生産する技術を開発し、電解用の電極や触媒の担体(触媒を支える材料)での利用を想定しています。水電解に関心のある複数の企業からサンプルの要望を受けており、試作品の提供と評価を通じて、受託合成や共同研究から事業化を進めます。

食品・農業

7. 岡山理科大学|100℃で働く酵素

研究テーマ100℃で使える超熱安定プロテアーゼ(酵素)の社会実装モデル構築↗
所属・大学岡山理科大学
採択枠2025年度 ステップ1 食品・農業・水産技術

タンパク質を分解する酵素「プロテアーゼ」は産業で広く使われていますが、産業用の酵素の多くは60℃以上で使えません。「岡山理科大学」の研究チームは、高温の環境にすむ「超好熱菌」に由来し、100℃で働くプロテアーゼ「Tk-SP」を実用的に生産する技術を持っています。異常プリオン(病気の原因になるタンパク質)の分解など、高温で酵素を使う新しい用途を想定しています。肥料、診断試薬、医療器具の洗浄、食品加工などの利用者に聞き取りを行い、用途に合わせた製品と販売の方法を固めます。

8. 広島大学|スマホで牛の体重を推定

研究テーマ牛体尺/体重推計技術を核とした生産効率最適化システムの展開↗
所属・大学広島大学
採択枠2025年度 ステップ1 食品・農業・水産技術

牛の体重は乳量、健康、繁殖、飼料の設計に関わる重要なデータですが、測定には手間と費用がかかり、現場では実施しにくい作業です。「広島大学」の研究チームは、スマートフォンに搭載された「LiDAR」(光で距離を測るセンサー)を使い、牛に触れずに短時間で体重を推定する技術を開発しています。アプリとして提供し、飼養管理や健康診断のAIシステムと連携させる計画です。国内に加え、北米、欧州、アジアの酪農市場への展開を目指します。

まとめ

「PSI GAPファンド」の強みは、中国・四国の18大学が「PSI」に参画し、医学から工学、農学まで幅広い研究を一つの制度で支えている点です。審査は5つの領域に分かれ、大手企業やVCも審査に加わります。2025年度のステップ1では、膀胱がんの再発を防ぐ治療、5分で80%充電できる電池材料、スマートフォンで牛の体重を推定する技術といった課題が採択されました。「ステップ1」から「ステップ2」へ支援の規模が広がるため、研究の段階に合わせて挑戦できます。中国・四国の大学で事業化を考えている研究者は、所属大学の起業支援の窓口で、「PSI GAPファンド」の公募の時期と応募条件を確認してみてください。

作成:FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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