2026.11.03 │ 京都大学・科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.29

京都大学、遺伝子発現の形から種間の遺伝子対応を推定する手法を開発

ニュース紹介

「遺伝子発現の形から種間遺伝子対応を推測~ビッグデータと数学で種差解明に挑む~」

京都大学 高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)の平岡裕章副拠点長/主任研究者、德田有矢特定研究員、井元佑介特定准教授らの研究グループは、異なる動物種の遺伝子発現データから、似た役割を担う遺伝子の候補を探す解析手法「Species-OT」を開発しました。動物実験の知見をヒトの理解に生かすには、種を超えた遺伝子の働きの対応を調べる必要がありますが、DNA配列の類似性だけでその対応が決まるとは限りません。

本手法は、多数の遺伝子の発現パターンがつくる「形」を比較することで、種間の遺伝子対応候補を推定し、データ全体の違いを定量化します。研究グループは本手法をマウス・カニクイザル・ヒトの細胞分化過程と6種の哺乳類の多能性幹細胞データに適用し、既知の生物学的知見に整合する遺伝子対応を上位候補として捉えることに成功しました。本成果は、2026年10月29日(日本時間)に、学術誌「Cell Reports Methods」にオンライン掲載されました(DOI:10.1016/j.crmeth.2026.101643)。

出典:京都大学・科学技術振興機構(JST) 2026年10月29日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261029-3/index.html

FrontJournalの解説

動物とヒトで遺伝子の役割を対応づける難しさ

マウスなどのモデル動物を使った研究は、ヒトを理解するうえで重要な手がかりになります。ただし種が違うと、同じ機能を持つ細胞の分化過程でも、分化を誘導する遺伝子が異なる場合があります。プレスリリースは例として、将来の精子や卵子になる「生殖細胞」の形成で、マウスとヒトの重要な遺伝子が一部異なることを挙げています。

種を超えた遺伝子の比較では、これまでDNA配列の類似性や進化上の関係が主な手がかりでした。研究グループは、特定の細胞や分化過程で似た役割を担う遺伝子を探すために、遺伝子がどの程度働いているかを示す発現データの「形」に着目しました。

①最適輸送理論で遺伝子発現の「形」を重ね合わせる

「Species-OT」は、細胞の中で多数の遺伝子がどの程度発現しているかを測ったトランスクリプトーム(細胞に含まれるRNA全体)のデータを使います。各遺伝子の発現の値を点とみなし、種ごとのデータを幾何学的な「形」として表す手法です。

研究グループは、数学の最適輸送理論(ある分布を別の分布へ最小のコストで移す方法を求める理論)を使い、2種の「形」ができるだけ重なるように遺伝子を対応づけました。計算の中心となるGromov-Wasserstein最適輸送(各データ内部の点どうしの距離の関係を比べる方法)は、座標のそろっていないデータどうしも対応づけられます。この計算から、種間の遺伝子対応の候補と、データ全体の違いを表す数値が得られます。

②マウスと霊長類のデータで既知の対応を確認

研究グループは、マウスとヒトの多能性幹細胞から始原生殖細胞様細胞(PGCLC)(将来の精子や卵子につながる細胞の特徴を培養下で再現した細胞)を誘導する過程を解析しました。「転写因子」(遺伝子の情報がRNAへ写される過程を調節するたんぱく質)に関連する遺伝子に着目したところ、既知の生物学的知見に合う対応が上位候補に入りました。候補には進化上の関係がそれほど近くない遺伝子の組み合わせも含まれ、研究グループはその意味を今後の実験で確かめるとしています。

6種の哺乳類の多能性幹細胞のデータも比較したところ、ヒトとチンパンジーが比較的似ており、マウスは霊長類と大きく異なるという関係が得られました。プレスリリースによると、この比較には種の違いに加え、細胞種や培養条件の違いも反映されます。

FrontJournalからのひとこと

「Species-OT」は、ある種で分かった遺伝子の役割を手がかりに、別の種で対応する遺伝子の候補をデータから絞り込む手法です。研究グループは、さまざまな細胞種や分化過程への適用と、候補遺伝子の実験による検証を今後の課題に挙げています。動物実験の知見をヒトの研究へつなぐ比較解析の基盤として、活用の広がりに注目します。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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