【GAPファンド・九州】PARKSの採択課題と研究テーマ

【GAPファンド・九州】PARKSの採択課題と研究テーマ

「GAPファンド」は、大学の研究者や学生が起業する前に、研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる、公的プログラムです。JST(科学技術振興機構)が中心となり、全国の地域組織が公募と審査を担います。九州・沖縄では「PARKS(パークス:Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem)」が「起業活動支援プログラム」を運営し、2026年度は64件を採択しました。本記事では、このうち8件を紹介します。

1.GAPファンドとは?

GAPファンドの役割を示す図。研究の段階の科研費など、研究と事業化の間のGAPファンド、起業の段階のVC出資などの順に並び、GAPファンドは大学の研究者や学生が起業する前に研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる公的プログラムだと説明している

「GAPファンド」(ギャップファンド)の「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。学術研究を支える「科研費(科学研究費助成事業)」や、設立後の企業に投資する「VC(投資会社等)」とは異なり、GAPファンドは起業前の研究者が行う試作や市場調査といった事業化の検証に充てられます。制度によっては、資金に加えて、起業に詳しい人材や投資機関から伴走支援を受けることも可能です。

GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。

2.PARKSの特徴

九州・沖縄の23機関が連携

「PARKS」の主幹機関は「九州大学」と「九州工業大学」です。九州・沖縄を中心とする21大学に「FFGベンチャービジネスパートナーズ」と「九大OIP株式会社」を加えた、全23機関で構成されています。「福岡市」と「北九州市」をモデル都市に、アジアのVCとも連携し、アジア展開を見据えた起業支援を行う点が特徴です。教育から起業支援までを一気通貫で実施し、2026年度末までに「PARKSインターユニバーシティ」の設立を目指しています。

Step1から起業までの支援額

2025年度の募集要項によれば、応用研究の「Step1」は1年で最大500万円です。概念実証を行う「Step2-1」は最長1.5年で最大2,000万円です。審査を通過して経営チームの組成と起業に進む「Step2-2」は最長1.5年で最大4,000万円で、「Step2」全体では最長3年、最大6,000万円となります。大学院生らの「学生PJ」は、Step1が1年で最大100万円、Step2が1年で最大300万円です。金額はいずれも直接経費で、別途30%の間接経費が措置されます。

プレCxO人材と事業化の伴走

採択チームには、PARKS事務局がインキュベーションプログラムを提供し、「プレCxO人材」(ビジネス面の検証を担う人材)や事業化推進機関(VCなど)とのマッチング、試作開発の外注サポートも行います。ビジネスプランの構築やマーケティング調査は、運営事務局や外部有識者(メンター)を交えて進めます。知的財産の出願や経営体制の構築も支援の対象です。成果は助成期間の終了後に「DemoDay」で発表し、審査員の評価を受けます。

3.PARKSに採択された8件

PARKSに採択された8件を編集部が分野に分けた図。食と環境は宮崎大学のペン型の採血、福岡工業大学の高純度セメンタイト、熊本大学のジャンボタニシの誘引防除、医療・ヘルスケアは長崎大学の口腔がんの細胞診AI、大分大学の肺線維症の新薬候補、九州大学の尿による大腸がん検査、宇宙・量子は九州工業大学のハイブリッドエンジン、沖縄科学技術大学院大学の超低雑音増幅器

2025年度と2026年度の採択課題から8件を選びました。公式の一覧とは分類が異なり、本記事では編集部が課題の概要をもとに、食と環境、医療・ヘルスケア、宇宙・量子に分けています。各課題について、研究テーマと採択枠を表で示し、研究の狙いを本文で説明します。

食と環境

1. 宮崎大学|ペン型の採血で家畜を守る

研究テーマペン型採血デバイスによる家畜健康モニタリングの標準化と一気通貫型防疫支援モデル事業の開発↗
所属・大学宮崎大学
採択枠2026年度 Step2-1

家畜の健康管理には採血と検査が欠かせません。「宮崎大学」の課題は、独自の「ペン型瞬間採血デバイス」と「DBS」(乾燥血液スポット)を組み合わせた検査の仕組みを開発するものです。専門家でなくても数秒で採血でき、血液を常温で郵送して高精度に検査します。畜産農家や獣医師向けの防疫支援プラットフォームとして商用化を図り、同大学の国際的な獣医学ネットワークを通じて海外へ広げる構想です。

2. 福岡工業大学|高純度セメンタイトで製鉄

研究テーマグリーンスチール社会の実現に向けた、高純度セメンタイトを用いた革新的電炉製錬プロセスの開発↗
所属・大学福岡工業大学
採択枠2026年度 Step1

鉄鋼メーカーには、CO2排出の削減と鋼の品質の両立が求められています。欧州の「CBAM」(炭素国境調整措置)への対応を急ぐ欧米や韓国のメーカーもあります。この課題に向け、「福岡工業大学」は「高純度セメンタイト」(鉄と炭素の化合物)の開発に取り組みます。電炉で高炉比75%のCO2削減と高炉並みの品質を実現する目標を掲げています。独自の炭素活量の精密制御技術を用い、回転式の加熱炉で1〜10kgバッチの安定量産と、電炉への投入実証を行います。スタートアップの設立に加え、海外メーカーへの技術ライセンスも見据えています。

3. 熊本大学|ジャンボタニシを誘引して防除

研究テーマ画像認識AIを用いたジャンボタニシ誘引成分の特定及び特殊コンクリート製の長期誘引餌の社会実装↗
所属・大学熊本大学
採択枠2025年度 学生PJ Step1

南米原産の外来種「ジャンボタニシ」は水稲の苗を食害し、年間500億円規模の損失が報告されています。「熊本大学」の学生チームは、濁った水や夜間でも使える画像認識AIで誘引成分を解析し、特殊なコンクリートと融合させた持続型の誘引餌を開発しています。環境負荷を抑えながら誘引が長く続く防除手法として確立できれば、農薬や既存の対策との相乗効果も見込めます。

医療・ヘルスケア

4. 長崎大学|口腔がんを細胞診AIで早期発見

研究テーマ口腔粘膜疾患を早期発見する細胞診支援AIの商用化↗
所属・大学長崎大学
採択枠2026年度 Step1

病理医の不足が深刻化する中、死亡率の高い「口腔がん」の早期発見には、低コストで体への負担が少ない「細胞診」の活用が求められています。「長崎大学」の課題は、細胞診の標本画像をAIで解析し、診断の負担軽減と判定精度の均てん化を図るものです。口腔外科医と病理医が共同で構築したデータに基づく口腔特化型のAIにより、少数症例でも高精度で説明可能な判定を目指します。高価な専用機器を必要としない構成で一般診療所への導入を促し、商用化に向けたスタートアップの設立と他のがん種への応用につなげる計画です。

5. 大分大学|肺線維症の新薬候補OU-413

研究テーマヒト外挿性を伴う抗線維化新薬OU-413の非臨床PoC確立↗
所属・大学大分大学
採択枠2026年度 Step2-1

「特発性肺線維症」は進行性で致死的な疾患で、既存薬の効果は進行の抑制や遅延に留まります。「大分大学」の新規低分子「OU-413」は、2種のマウスモデルで既存薬を上回る薬効と安全域を示したと報告されています。今後は慢性マウスモデルとヒト肺組織を用いてヒトへの外挿性を確かめ、皮下投与での非臨床の概念実証を確立します。経肺投与への展開も視野に入れ、他社への導出の判断に必要な資料を整える計画です。

6. 九州大学|尿から大腸がんを検査

研究テーマUro-GRAMS を用いた高精度な非侵襲的大腸がんスクリーニング法の開発↗
所属・大学九州大学
採択枠2026年度 Step2-1

従来の大腸がんスクリーニング法には、特に早期がんで精度が低いという課題があります。「九州大学」の「Uro-GRAMS」は、尿を質量分析で測定する非侵襲の検査法で、測定成分の網羅性を生かして精度を高めます。費用を抑え、検診を受けやすくすることも狙いの一つです。Step2-1では大腸がんのリスク検査サービス(自由診療)として概念実証を確立し、商用化を担うスタートアップの設立へ進みます。

宇宙・量子

7. 九州工業大学|ハイブリッドエンジンで宇宙輸送

研究テーマ量産・クラスタ化による宇宙輸送インフラ実現に向けた標準型A-SOFTハイブリッドエンジンの開発と飛翔実証↗
所属・大学九州工業大学
採択枠2026年度 Step2-1

衛星の需要が拡大する一方で打ち上げの機会は不足しており、低コストで柔軟な宇宙輸送基盤の整備が急がれています。「九州工業大学」のチームが取り組むのは、低コストで安全性の高い「A-SOFTハイブリッドエンジン」の標準化と量産、複数のエンジンを束ねるクラスタ化です。今回の課題では標準エンジンのプロトタイプを開発して飛翔実証を行い、飛行データをもとに技術の改良と標準規格の検討を進めます。海外のスタートアップや国内外の大学、先行企業との連携を通じて需要も把握し、将来の量産とクラスタ輸送サービスの事業化を検証します。

8. 沖縄科学技術大学院大学|量子向け超低雑音増幅器

研究テーマ低温・超低雑音マイクロ波増幅器の製品化↗
所属・大学沖縄科学技術大学院大学
採択枠2026年度 Step2-1

マイクロ波帯の量子情報技術には、極低温環境で動作する超低雑音の増幅器が欠かせません。「沖縄科学技術大学院大学」の課題は、「メーザー技術」を活用し、ノイズ温度0.5K以下、増幅帯域500MHz以上の「超低雑音マイクロ波増幅器」を開発するものです。従来技術では難しかった磁場中の動作や、高周波数の広帯域動作の実現を目指します。量子コンピュータの開発企業や研究機関を顧客とするスタートアップを設立し、海外の需要も取り込む構想です。

まとめ

「PARKS」の強みは、九州・沖縄を中心とする21大学とVCなどが連携し、地域の幅広い大学の研究を事業化へ導く点です。採択チームはプレCxO人材や事業化推進機関、メンターの伴走を受けながら、試作と顧客の評価、事業計画の検証を進めます。こうした支援の中で、家畜の採血技術や宇宙輸送用エンジンの事業化に挑むチームが生まれています。Step1からStep2まで段階が分かれ、学生PJもあるため、研究の進み具合に応じて挑戦できます。九州・沖縄の大学で事業化を考えている研究者は、所属大学の起業支援の窓口で、「PARKS」への参加状況と公募の時期を確認してみてください。

作成:FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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