2026.07.29 名古屋大学・科学技術振興機構(JST) 元発表:2026.07.28

名古屋大、分子の骨格を編集して新しいナノカーボンを合成(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「ナノカーボン合成の新展開:「骨格編集」戦略を実証~次世代デバイスなど機能性材料の創出につながる知見~」

名古屋大学大学院工学研究科の平野純一朗氏(博士後期課程学生)、井改知幸教授、日下心平講師、松田亮太郎教授、忍久保洋教授、福井識人准教授らの研究グループは、「骨格編集」という分子骨格内部に着目した化学変換が、新しいキラルナノカーボン分子の創出に有効であることを実証しました。骨格編集はこれまで主に医薬品開発を対象としてきた手法です。

研究グループは、分子骨格内部の結合の開裂と再修復を鍵として、含十員環ナノカーボンとキラルナノカーボンの不斉合成を達成しました。得られた分子は、高いラセミ化障壁、効率的な円偏光発光、多段階の可逆な酸化還元挙動、多孔性構造体の形成といった物性を示しています。研究成果は2026年7月28日付でNature Communicationsに掲載されました。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年7月28日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260728/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

ナノカーボンは、炭素原子がナノメートルの大きさで結びついた材料の総称です。球状のフラーレン、筒状のカーボンナノチューブ、原子1個分の厚さのシート状であるグラフェンなどが知られ、電子材料や光学材料の候補として研究されてきました。

近年注目されているのが、右手と左手のように鏡像が重ならない「キラル」な構造を持つナノカーボンです。この性質を持つ分子は、右回りか左回りの円偏光(回転しながら進む光)を強く出す「円偏光発光」を示します。円偏光発光はディスプレイの高輝度化やセキュリティ用途、光通信などへの応用が期待され、材料開発が活発に進む領域です。ただし、狙った向きのキラル分子だけを作り分ける「不斉合成」は難しく、合成手法そのものが課題になってきました。

①「骨格編集」を材料合成に持ち込む

従来の有機合成では、分子の外側に置かれた原子や置換基を付け替えるやり方が中心でした。これに対して骨格編集は、分子の骨組みそのものに手を入れ、内部の結合を切って組み直します。医薬品開発では、既存の薬の骨格を少し変えて性質を調整する目的で使われてきた手法です。

今回の研究は、これをナノカーボンの合成に応用しました。分子骨格内部の結合を開裂させ、そこから再び結びつけ直すことで、十員環を含むナノカーボンと、キラルなナノカーボンの不斉合成を達成しています。外側だけを変える発想では届きにくかった構造に、内側から到達する経路を示した点が中身です。

②4つの物性が1つの分子に同居する

得られた分子が示した性質は4つ挙げられています。高いラセミ化障壁(左右の向きが入れ替わりにくく、キラル性が保たれること)、効率的な円偏光発光、多段階の可逆な酸化還元挙動、そして多孔性構造体の形成です。

これらは応用先の方向が異なります。円偏光発光は光学材料、可逆な酸化還元は電池や電子材料、多孔性構造は分離材料や吸着材料に関わる性質です。1つの合成戦略から性格の異なる機能が同時に出てきたことは、この手法が使える範囲が特定の用途に限られない可能性を示しています。今回は用途を絞り込む段階ではなく、材料設計の選択肢を広げた成果として位置づけるのが妥当でしょう。

編集部からひとこと

薬をつくるための手法を材料合成に持ち込む、という発想の移し替えが面白い研究です。分野をまたいで方法論が行き来する場面は化学ではよく見られますが、今回のように狙いにくい構造へ到達する道が開くと、そこから先の展開は速くなります。円偏光発光の材料は用途の裾野が広いだけに、合成のバリエーションが増えることの意味は大きいと感じます。

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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