FrontJournalの解説
この研究分野について
患者申出療養制度は、国内で承認されていない医薬品や適応外の医薬品を、患者の申出に基づき臨床研究として使用できるようにするための制度です。国が定めた実施計画のもと、大学病院やナショナルセンターなどの中核病院を中心に、通常の保険診療に上乗せするかたちで先進的な医療にアクセスできる仕組みとして運用されています。PARTNER試験(NCCH2220)は、この制度を活用して0〜29歳の小児・AYA世代がん患者に適応外薬または未承認薬を使用可能にする医師主導臨床研究で、2024年1月より実施されており、2026年4月時点で実施施設は6施設、対象医薬品は10医薬品に拡大しています。
一方の分散型臨床試験(DCT)は、オンライン診療・在宅医療機器・患者近隣の医療機関との連携などを組み合わせ、患者の来院回数を減らして臨床試験を実施する新しい試験形態です。海外では大手製薬企業と臨床試験受託機関(CRO)を中心に導入が進み、日本国内でも2023年ごろから医師主導治験や希少がん領域で運用実績が積み上がってきました。
①小児・AYA世代がんとDCTの意義
小児・AYA世代のがんは、成人のがんに比べて患者数が少なく、疾患ごとの症例が地域に分散するため、大規模な臨床試験の実施が難しい領域とされてきました。企業による新薬開発も進みにくく、ドラッグ・ラグ(海外で承認された薬が日本で使えるようになるまでの遅れ)や、承認済み薬の適応外使用に頼らざるを得ない場面も多いのが実情です。
そのうえで、これまでのPARTNER試験では、遠方に住む患者・家族が繰り返し東京の中央病院に通院する必要があり、身体的・経済的な負担が大きい点が課題として指摘されてきました。中央病院は、DCTの導入により、患者の居住地に近い医療機関で必要な対応を受けられる体制を整え、居住地によらない治療機会の提供につなげるとしています。プレスリリースの中で中央病院の小児腫瘍科科長・荒川歩は、「小児がんの患者さんがなるべくご自宅に近い施設で、希望される新規薬剤にアクセス出来るようになるための大きな一歩」と位置づけています。
②連携体制と今後の展開
今回パートナー病院となる鹿児島大学病院は、すでに中央病院が成人領域で実施した臨床試験でDCTのパートナー病院としての実績を持ち、その実施体制と経験を小児がん領域にも応用するかたちで参加します。中央病院によるオンライン診療とパートナー病院での検査などを組み合わせ、患者・家族の通院負担を減らしながら試験を進める設計です。
中央病院は2023年に希少がんを対象とした医師主導治験でオンライン治験を開始し、2026年3月時点で11の医療機関とパートナー病院として委受託契約を締結してきたとしており、今回のPARTNER試験へのDCT導入はその延長線上に位置づけられます。今後は、安全面などの運用状況を確認しながら、対象医薬品とパートナー病院を順次拡大していく方針です。
編集部からひとこと
PARTNER試験は、患者数が少なく製薬企業単独では開発が難しい小児・AYA世代のがん領域で、患者申出療養制度を通じてドラッグアクセスを広げる医師主導の取り組みです。今回のDCT導入は、その仕組みを地理的な制約からも解き放とうとする実務的な一歩と言えます。診療の質と安全性を担保しながらDCT対応薬・パートナー病院がどこまで広がるかは、今後の運用状況の公開や参加施設の拡大状況から丁寧に見ていく必要があります。詳細は国立がん研究センター中央病院のプレスリリースをご参照ください。