2026.10.08 │ 理化学研究所・東京理科大学・藤田医科大学 │ 元発表:2026.10.07

理研ら、X線と近赤外光で脳を深部観察するライトシート顕微鏡

ニュース紹介

「X線と近赤外光を組み合わせたライトシート顕微鏡を開発」

理化学研究所の光量子工学研究センター(横田秀夫チームディレクターら)と放射光科学研究センター(香村芳樹チームリーダーら)、東京理科大学先進工学部(曽我公平教授ら)、藤田医科大学オープンファシリティセンターの共同研究グループは、X線を当てると近赤外光を発する希土類元素入りのセラミックス蛍光体に着目し、X線と近赤外光を組み合わせたライトシート顕微鏡を開発したと発表した。蛍光体にはイッテルビウムとエルビウムを添加した酸化イットリウムを選び、この蛍光体を混ぜたシリコーン樹脂をマウスの脳血管に充填して撮影した。従来は脳の透明化処理が必要で、時間や手間がかかる上に、処理方法によっては組織が膨張・収縮して観察結果に影響を及ぼす課題があった。今回の手法では、透明化処理をせずに、可視光で検出した場合は脳表面から300マイクロメートルまでだった観察深度を、近赤外光で検出することで800マイクロメートルまで伸ばし、約2.7倍に改善したという。研究グループは、X線でさらに明るく光る蛍光体の開発、発光波長の選択、カメラの検出感度向上を進め、観察できる深さと範囲の拡大を目指すとしている。成果は科学誌『Scientific Reports』に9月19日付で掲載された。

出典:理化学研究所 2026年10月7日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20261007_1/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

生き物の体の中を、切らずに細胞の単位で調べる技術は、脳の仕組みの解明や病気の研究に欠かせません。その代表がライトシート顕微鏡です。観察したい試料に薄い板状の光(ライトシート)を横から当て、光った面だけを順番に撮影して立体像を組み立てます。試料全体に光を当てる方式より、試料への負担が小さい点が特徴です。

ただし、脳のような厚い組織は光を散乱・吸収するため、表面から深い場所は見えにくくなります。そこで広く使われてきたのが、組織を薬剤で透明にする透明化処理です。深くまで見える一方、処理に時間と手間がかかり、組織の大きさが変わるおそれもあります。今回の研究は、この処理に頼らずに深部を見る方法を探ったものです。

①X線で光る蛍光体が、光の届きにくさを避ける

一般に、近赤外光は可視光に比べて生体組織で散乱や吸収を受けにくいとされ、深部の観察に向く光として知られます。研究グループは、X線を当てると近赤外光を発する蛍光体(イッテルビウムとエルビウムを加えた酸化イットリウム)を試料の中に置き、そこから出る光を検出する構成にしました。X線は組織を通り抜けやすいため、板状に絞ったX線で蛍光体を励起し、出てきた近赤外光をカメラで捉えます。可視光で検出した場合の300マイクロメートルに対し、近赤外光では800マイクロメートルまで観察できた点が、成果の核にあたります。

②透明化なしで「生のまま」の構造に近づく

透明化処理を省けることは、時間の短縮にとどまりません。処理で組織が膨張・収縮すると、血管や細胞の本来の配置や大きさが変わった状態で観察することになります。処理をしない手法であれば、本来の構造に近い状態を調べやすくなると考えられます。今回は蛍光体入りの樹脂を血管に充填した試料での実証であり、観察できた深さも800マイクロメートルです。研究グループが、より明るく光る蛍光体の開発やカメラの感度向上に取り組むとしているのは、この深さと範囲を広げるためです。

編集部からひとこと

顕微鏡は、光源・試料・検出器の組み合わせで性能が決まる装置です。今回の成果は、放射光やX線の技術と光学顕微鏡の技術という、別々の分野で磨かれてきた手段を、蛍光体を介してつないだ点に特徴があります。実用の場面では、蛍光体をどのように試料へ届けるかなどの課題が残るとみられますが、脳科学や医学研究の観察手段が広がる可能性を示す一歩として注目したい成果です。

FrontJournal編集部

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