【GAPファンド・首都圏】GTIE発スタートアップ8社の研究と事業
「GAPファンド」は、大学の研究成果がビジネスとして成り立つかを、起業する前に検証するための資金です。首都圏では、大学・自治体・企業など85機関が参加する「GTIE」がこの資金を運営し、その採択チームから医療・素材・原子力・交通など幅広い分野のスタートアップが生まれています。この記事では、そのうち8社について、採択時の研究テーマと現在の事業を紹介します。
「GAPファンド」は、大学の研究成果がビジネスとして成り立つかを、起業する前に検証するための資金です。首都圏では、大学・自治体・企業など85機関が参加する「GTIE」がこの資金を運営し、その採択チームから医療・素材・原子力・交通など幅広い分野のスタートアップが生まれています。この記事では、そのうち8社について、採択時の研究テーマと現在の事業を紹介します。
「GAPファンド」(ギャップファンド)の名前にある「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。科研費が学術研究を、VC出資が設立後の企業を対象とするのに対し、GAPファンドが支えるのは、起業前の研究者・学生による試作や市場調査といった事業化の検証です。制度によっては、採択された研究者が資金に加えて、経営人材とのマッチングやメンタリングなどの起業支援も受けられます。
GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。
「GTIE」は、一つの大学の枠を越えて研究者の起業を支えるプラットフォームです。「GTIE GAPファンド」の財源には、科学技術振興機構(JST)の委託費に加え、協力機関を中心とする民間企業からの資金も充てられています。
「GTIE GAPファンド」には、研究の進み具合に応じて選べる、期間と目的の異なるコースがあります。具体的には、研究シーズが事業として成り立つかを確かめる「エントリーコース」(1年未満)、概念実証(PoC)を行い、VCが投資を判断できる水準での起業を目指す「エクスプロールコース」(2年または3年)、取得済みのデータや試作品で海外の市場を開拓する「海外市場開拓実践コース」(1年)の3つ。なお、「GTIE」は2022年に期間6か月のGAPファンドを実施し、17チームを採択しました。
「GTIE」にとって、GAPファンドは5つの支援機能のうちの一つ。ほかの4つは、経営者人材と研究者のマッチング、専門家によるメンタリング、シード出資の獲得支援、大企業とのマッチングです。採択チームには事業化推進機関が付き、起業や次の研究開発資金の獲得に向けた活動を研究者とともに進めます。
「GTIE」が公式サイトに掲載するGAPファンド発スタートアップ7社と関連スタートアップ1社を、編集部で医療・創薬・ヘルスケア、素材・エネルギー、原子力・交通インフラの3分野に分けました。ここからは各社について、プロジェクトと採択枠を表で、採択時の研究内容と目標を本文で紹介します。なお、「アークス」は「GTIE」の区分では「関連スタートアップ」に当たります。
| 企業名 | 株式会社TOMOCLOUD |
|---|---|
| 分野 | 医療機器 |
| プロジェクト | サルコペニア予防のための筋量・筋質イメージング・ウェアの事業化↗ |
| 所属・大学 | 千葉大学 大学院工学研究院 |
| 採択枠 | エントリーコース・2025年度 |
「TOMOCLOUD」は、体に流した微弱な電流で筋肉の状態を画像にする技術を研究しています。対象は、加齢で筋肉の量と質が落ちる「サルコペニア」。予防には早期の発見と介入が欠かせず、筋肉の量だけでなく質も評価する必要がありますが、従来の検査機器では筋肉の質を正確に測ることが難しいとされてきました。そこで採択チームは、EIT(電気インピーダンス・トモグラフィ)を使い、多数の電極を内蔵したウェアと小型の機器を組み合わせた製品を開発しています。この製品は、筋肉の状態や運動・リハビリ中の変化を、3次元の画像に時間の変化を加えた4D画像として、スマートフォンにリアルタイムで表示するもの。採択時の計画では、医療現場と地域社会への導入を通じて、サルコペニアの予防と継続的な見守りを実現するとしています。
| 企業名 | 株式会社ANRis |
|---|---|
| 分野 | 創薬・核酸医薬 |
| プロジェクト | 疾患原因遺伝子における塩基変異特異的siRNAの汎用性拡大と実用化を目指したスタートアップ↗ |
| 所属・大学 | 東京大学 |
| 採択枠 | 起業家支援プログラム 2022 |
「ANRis」は、病気の原因となる変異遺伝子だけを抑える核酸医薬を研究しています。がんや神経変性疾患を含む遺伝性疾患には、原因遺伝子の1塩基の変異で発症する例が多く知られています。そうした変異をもつ遺伝子だけを抑え、正常な遺伝子は抑えないのが、採択チームの開発した「SNPD-siRNA」。細胞や一部のマウスでは、すでに効果が確認されました。採択時の計画では、がん関連遺伝子のKRASを対象にした有効性の評価に加え、体内で分解されにくくする化学修飾や、膵臓・皮膚へ薬を届ける方法の最適化に取り組むとしています。目標は、既存の薬では治療が難しい病気に向けて、この技術を多くの疾患に使える基盤として確立すること。
| 企業名 | 株式会社アークス |
|---|---|
| 分野 | 生殖医療 |
| プロジェクト | 不妊治療で用いる生殖補助医療自動化システムの開発↗ |
| 所属・大学 | 東京科学大学 |
| 採択枠 | 起業家支援プログラム 2022/GTIEの区分は関連スタートアップ |
「アークス」は、AIとロボットを使った顕微授精の支援と自動化を研究しています。顕微授精とは、胚培養士と呼ばれる専門職が卵子に精子を直接注入する、不妊治療の高度な手技のこと。日本では、生殖補助医療によって生まれる子どもが約10人に1人に上ります(2022年時点)。2022年4月に生殖補助医療が保険適用となり、生まれる子どもの数はさらに増えていますが、高度な手技を身に付けた胚培養士は慢性的に不足している状況。そこで同社は、人の目では判断しにくい良好な精子をAIで定量的に評価し、選んだ精子を自動化システムで素早く正確に注入する仕組みを開発中です。この仕組みにより、胚培養士の負担を軽くし、質の高い不妊治療を多くの人に届けることが期待されています。
| 企業名 | Xtelligence Inc. |
|---|---|
| 分野 | 素材・酵素 |
| プロジェクト | 革新的な酵素ソリューションを生み出すタンパク質結晶材料事業↗ |
| 所属・大学 | 東京科学大学 |
| 採択枠 | 海外市場開拓実践コース(2024年度・2025年度) |
「Xtelligence」は、細胞の中でタンパク質を結晶にする技術を使い、酵素の新素材を研究しています。その新素材が、酵素の精製・固定・保存をひとつにまとめた「PCM」(Protein Crystal Material)。PCMは、従来の技術では難しかった、複数の酵素を組み合わせた反応や溶けにくい条件での反応を可能にし、細胞への毒性も抑えられます。事業の柱は、酵素製品の開発・販売と、酵素の製造・利用を支える研究開発サービスです。同社は創業初期に、少量でも価値の高い市場で製品を出し、技術を積み重ねて量産体制を整えたうえで、研究試薬から医薬中間体の製造まで用途を広げていく計画。海外市場への展開も視野に入れています。
| 企業名 | 株式会社elleThermo |
|---|---|
| 分野 | エネルギー・排熱発電 |
| プロジェクト | 熱源に埋めて使う半導体増感型熱利用発電の事業化検証↗ |
| 所属・大学 | 東京科学大学 |
| 採択枠 | 起業家支援プログラム 2022 |
「elleThermo」は、熱を電気に変える「STC」(半導体増感型熱利用発電)を研究しています。STCは室温以上の熱を電力に変える技術で、放電を終えてもスイッチを切ると熱を吸収し、再び放電できるのが特徴。そのため、屋根の下や壁の中、地下に埋めたまま、スイッチの入り切りだけで発電を続けられます。採択チームは前年度、研究室で作ったセルを希望者に貸し出して利用データを集めました。GAPファンドの期間中には、そこで見つかった課題を解決した第2世代のセルを開発し、再び貸し出して利用者の声をもとに改良を重ねる計画でした。将来は、リチウムイオン電池の代替や、温度が上がると落ちる太陽電池の発電量を熱発電で補うシステムへの展開を構想しています。
| 企業名 | ReNu Industries |
|---|---|
| 分野 | 原子力・廃炉 |
| プロジェクト | 原子力発電所廃炉プロセスの高度化及び除染・炉心解体技術の改良に資するデジタルツイン技術の概念検証↗ |
| 所属・大学 | 茨城大学 |
| 採択枠 | エクスプロールコース |
「ReNu Industries」は、デジタルツインで原子力発電所の廃炉を効率化する技術を研究しています。デジタルツインとは、現実の設備を仮想空間に再現する技術のこと。同社は、最新の除染・切断手法の知見を集めたデータベースと、細かな単位のシミュレーションを組み合わせ、安全でコストを抑えた廃炉作業の実現を目標にしています。GAPファンドの期間中には、除染・切断技術の課題を洗い出してデータベースを構築し、システムの試作品を完成させる計画を掲げました。顧客候補から導入の意向を得て事業計画を立て、VCから出資の意向を得ることも目標の一つです。その先には、廃炉を新しい産業に育て、地域の産業振興に貢献するという構想があります。
| 企業名 | 株式会社Lead accel |
|---|---|
| 分野 | 原子力・放射性廃棄物 |
| プロジェクト | 世界中の人類が直面する最高難度の廃棄物を無害化する革新的液体金属技術↗ |
| 所属・大学 | 東京科学大学 |
| 採択枠 | エクスプロールコース |
「Lead accel」は、液体金属を使い、高レベル放射性廃棄物を扱いやすい物質に変える技術を研究しています。世界で稼働する約400基の原子力発電所では、半減期が最長200万年と長い「マイナーアクチノイド」が生じ、最終処分の負担になっています。この物質を、放射線を出さない核種や短寿命の核種に変えるのが、同社が開発を進める加速器駆動型核変換システム(ADS)。ADSの中心部に使うのは液体重金属で、「東京科学大学」は、この技術の研究開発を20年以上続けてきました。採択時の計画では、数値シミュレーションを中心にコンパクトなADSを設計し、10年以内にモックアッププラントで原理を検証するとしています。
| 企業名 | 株式会社Nohs |
|---|---|
| 分野 | 交通・鉄道 |
| プロジェクト | 列車の混雑を見える化し、乗客が安く乗れるかつ、混雑を緩和し、安心して移動できる社会の実現(STEP2)↗ |
| 所属・大学 | 東京科学大学 |
| 採択枠 | 起業家支援プログラム 2022 |
「Nohs」は、IoTデバイスで列車の混雑をリアルタイムに見える化する技術を研究しています。通勤・通学の混雑対策としては、アプリでの混雑情報の配信やオフピーク通勤へのポイント付与が行われていますが、利用は一部の乗客にとどまっているのが現状。採択チームの計画は、乗客が自分で混雑を避けられるように情報を届けるとともに、インセンティブで行動の変化を後押しする実証実験を行うというものでした。鉄道会社・乗客・沿線の店舗をつなぐ事業の仕組みを設け、運行の効率化と沿線地域の活性化につなげることが狙いです。将来像として掲げるのは、無料で移動できる社会の実現。
「GTIE GAPファンド」からは、医療から原子力・交通まで、幅広い分野で大学発のスタートアップが生まれています。これらの技術が広がると、現場で働く人の仕事も変わります。不妊治療では、AIとロボットが顕微授精を支えることで、胚培養士の負担を減らすことが期待されています。原子力の分野でも、廃炉の工程を仮想空間で事前に確かめられるようになり、放射性廃棄物の処分には新しい選択肢が加わる可能性があります。通勤では、乗客が込み具合を見ながら混雑を避けて移動できるようになります。首都圏の大学で事業化を考えている研究者は、所属大学の起業支援の窓口で、「GTIE」への参加状況と公募の時期を確認してください。
出典:GTIE GAPファンド発スタートアップ/GTIE GAPファンド/エントリーコース第3回採択一覧/Xtelligence採択テーマ/ReNu Industries採択テーマ/Lead accel採択テーマ/ANRis採択テーマ/Nohs採択テーマ/elleThermo採択テーマ/TOMOCLOUD/Xtelligence/ReNu Industries/Lead accel/ANRis/elleThermo/アークス/JST 機構報第1767号
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