【GAPファンド・甲信・北関東】IJIEの採択課題と研究テーマ

【GAPファンド・甲信・北関東】IJIEの採択課題と研究テーマ

「GAPファンド」は、大学の研究者や学生が起業する前に、研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる、公的プログラムです。JST(科学技術振興機構)が中心となり、全国の地域組織が公募と審査を担います。甲信・北関東では「IJIE(アイジー:Inland Japan Innovation Ecosystem)」が「IJIE-GAPファンドプログラム」を運営し、2026年度のステップ2では7件を採択しました。本記事では、IJIEの採択課題から8件を紹介します。

1.GAPファンドとは?

GAPファンドの役割を示す図。研究の段階の科研費など、研究と事業化の間のGAPファンド、起業の段階のVC出資などの順に並び、GAPファンドは大学の研究者や学生が起業する前に研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる公的プログラムだと説明している

「GAPファンド」(ギャップファンド)の「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。学術研究を支える「科研費(科学研究費助成事業)」や、設立後の企業に投資する「VC(投資会社等)」とは異なり、GAPファンドは起業前の研究者が行う試作や市場調査といった事業化の検証に充てられます。制度によっては、資金に加えて、起業に詳しい人材や投資機関から伴走支援を受けることも可能です。

GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。

2.IJIE-GAPファンドプログラムの特徴

IJIEの特徴を示す図。左の参画団体のカードには、甲信・北関東5県の87機関が参画し、大学は信州大学(主幹)、山梨大学、宇都宮大学、群馬大学、埼玉大学、東洋大学、自治医科大学、埼玉医科大学、企業・団体は長野県や山梨県などの自治体と、八十二長野銀行などの金融機関だと記している。右の資金・起業支援のカードには、社会に大きなインパクトを与え、短期間で急成長する企業を目指すスタートアップ枠(プレ)が最大500万円/1件、社会課題を解決し、着実な収益を早期に得て成長する企業を目指すインパクトビジネス枠が最大300万円/1件と記している

甲信・北関東の87機関が参画

「IJIE(アイジー)」は、甲信・北関東5県の大学、自治体、民間企業などが参画するプラットフォームです。主幹機関は「信州大学」で、「山梨大学」「宇都宮大学」「群馬大学」「埼玉大学」「自治医科大学」「埼玉医科大学」「東洋大学」「信州TLO」が共同機関を務めます。金融機関やVCなどの協力機関も加わり、合計87機関の体制です。首都圏の「GTIE」、東海の「Tongali」とも連携しています。

枠ごとに異なる支援額

2026年のステップ1は、枠ごとに支援額が異なります。短期間で急成長するスタートアップを目指す「スタートアップ枠(プレ)」は1件あたり最大500万円です。社会課題の解決と着実な収益の両立を目指す「インパクトビジネス枠」は最大300万円です。金額は直接経費で、別途30%の間接経費が配分されます。基礎的な研究と起業後の企業は支援の対象外で、応募には事前講習の受講が必要です。

事業化推進機関と進める

研究代表者は、「事業化推進機関」や経営者候補人材と連携して研究開発と実証試験を進めます。事業化推進機関は、助言に加えて、各課題の事業開発に責任を持つ機関です。採択課題の相手先には、VCや商社、地域の企業などが名を連ねています。

3.IJIE採択プロジェクトの例

IJIEの採択プロジェクトの例を編集部が分野に分けた図。食と水は信州大学の低水圧で動く浄水膜、山梨大学のサクランボの選果の自動化、素材と光学は埼玉大学の太陽電池の一括形成、群馬大学の炭素材料の構造解析、宇都宮大学のARグラスの導光板、医療と防災は自治医科大学の血友病の遺伝子治療、埼玉医科大学の妊婦のオンライン診療支援、信州大学の蚊の嗅覚を使うセンサ

IJIEでは、様々な分野のプロジェクトが採択され、大学発ベンチャーの設立をサポートしています。本記事では、研究テーマと採択枠を、食と水分野2件、素材と光学分野3件、医療と防災分野3件紹介します。

食と水

1. 株式会社信水|低水圧で動く浄水膜

企業名株式会社信水
研究テーマ極超低圧で駆動する超高透水逆浸透膜・モジュールの製造・販売事業に向けたフィージビリティスタディ↗
所属・大学信州大学
採択枠2024 ステップ2

飲料水に課題を抱える途上国では、電源や設備に頼らない浄水の手段が求められています。「信州大学」で開発された、ナノカーボンを用いた「RO膜」(逆浸透膜)は、水道水圧0.2MPaの極超低圧で駆動し、水道の蛇口に直結して運用できます。電源、ポンプ、貯水タンクが不要で、塩素や汚れに強い点も特徴です。チームは「丸紅」の協力を得て市場調査と実証試験を進め、2026年5月に「株式会社信水」を設立しました。

2. 山梨大学|サクランボの選果を自動化

研究テーマスマート農業を加速するAI・ロボット融合型サクランボ選果・パック詰めシステムの社会実装↗
所属・大学山梨大学
採択枠2025 ステップ2

サクランボは高収益作物ですが、生産現場では高齢化や熟練労働者の不足、長時間労働が続いています。「山梨大学」のチームは、収穫後に最も手間のかかる選果とパック詰めを自動化するシステムを開発しました。機械を農家や農業法人、JAへ販売し、選果データと環境・営農データをAIで解析して営農指導にも役立てる計画です。スタートアップの設立は2027年4月を予定しています。

素材と光学

3. 埼玉大学|太陽電池を一度の塗布で形成

研究テーマ大面積化可能技術を用いた多層一括形成による高性能ペロブスカイト太陽電池の開発↗
所属・大学埼玉大学
採択枠2026 ステップ2

「ペロブスカイト太陽電池」の普及には、製造工程と設備のコスト削減が欠かせません。「埼玉大学」の「多層一括成膜技術」は、主要な3層を一回の塗布と乾燥で形成するものです。今回の課題では、量産が可能なバーコート法で効率18%以上と耐久性の確認に取り組み、フィルム型電池のメーカーとの共同開発を準備します。起業は2028年度前半を目途とし、インク材料の販売と製造ノウハウのライセンス供与を想定しています。

4. 株式会社ICTECH|炭素材料の構造を解析

企業名株式会社ICTECH
研究テーマ炭素材料の革新的分子構造解析技術の開発↗
所属・大学群馬大学
採択枠2024 ステップ1「プレ」

炭素材料の性能を高めるには、分子構造を精密に把握する必要があります。「群馬大学」のチームは、炭素材料の分子構造解析技術を核とする事業モデルの構築を進めました。事業の柱は、企業や大学からの依頼分析、材料設計のコンサルティング、基準試料の販売です。2025年9月には「株式会社ICTECH」を設立しています。

5. 宇都宮大学|ARグラスの導光板を開発

研究テーマAR/MR用ホログラフィック導光板デバイスの開発↗
所属・大学宇都宮大学
採択枠2025 ステップ2

現実の視界にデジタル情報を重ねる「ARグラス」を日常の道具にするには、光学性能と装着性の両立が求められます。「宇都宮大学」のチームは、曲面形状に対応できる独自の「ホログラフィック導光板」を基盤に、製造に必要な露光装置と評価装置を開発し、ARグラスの試作にも取り組みます。導光板メーカーへのライセンス提供を主軸とする事業を構想しています。

医療と防災

6. 自治医科大学|血友病の遺伝子治療を低用量に

研究テーマ革新的な血友病Aに対する遺伝子治療薬の創出↗
所属・大学自治医科大学
採択枠2024 ステップ1「プレ」

「血友病A」は血液凝固第VIII因子の遺伝的欠損による出血性疾患で、国内の対象患者は約3千名とされています。「自治医科大学」の課題は、高活性で分泌量の多い改変型の第VIII因子を用いて、上市済みの遺伝子治療薬の1/30以下のベクター用量での治療を探るものです。用量を減らせれば、安全性の向上と製造コストの低減につながります。ブタでの追加実験と知財調査で事業性を確かめ、起業につなげる計画です。

7. 埼玉医科大学|妊婦のオンライン診療をAIで支援

研究テーマ妊婦に対するAI搭載型オンライン診療支援システムの開発と新規ビジネスモデル創出↗
所属・大学埼玉医科大学
採択枠2025 ステップ1

少子化が進む中、周産期合併症の低減は重要な課題です。「埼玉医科大学」の課題は、AI搭載型のプログラム医療機器「MLink-Cure」の開発です。電子医療データと、モバイル機器で取得した日常の健康データを統合して解析し、オンライン診察に生かします。妊娠糖尿病の妊婦の血糖値改善と合併症の発症率低減という臨床成果を追求し、収益基盤の安定化を図る計画です。

8. 信州大学|蚊の嗅覚で要救助者を探す

研究テーマ命の匂いを捉える:蚊の嗅覚を活用した災害現場向けヒト臭センサの開発↗
所属・大学信州大学
採択枠2025 ステップ1

視界が悪い場所や瓦礫の下では、画像センサが機能しにくくなります。「信州大学」の課題は、蚊の鋭敏な嗅覚を応用し、ヒト特有の匂いを検出する「バイオハイブリッド型匂いセンサ」の開発です。小型で軽量なため、ドローンや移動ロボットへの搭載に適しています。2028〜2029年のスタートアップ設立を計画し、災害対応に加えて、セキュリティ分野などへの応用も見込んでいます。

まとめ

「IJIE」の強みは、甲信・北関東の大学に自治体、金融機関、VCなどが加わり、地域全体で大学の研究を事業化へ導く点です。採択チームは事業化推進機関や経営者候補人材と連携しながら、研究開発と実証試験を進めます。こうした支援の中で、「株式会社信水」や「株式会社ICTECH」が設立されました。ステップ1には目的の異なる枠があり、ステップ2へ進む道も用意されているため、研究の進み具合や目指す事業の形に応じて挑戦できます。甲信・北関東の大学で事業化を考えている研究者は、所属大学の起業支援の窓口で、「IJIE」への参加状況と公募の時期を確認してみてください。

作成:FrontJournal編集部

この記事の作者

FrontJournal編集部

ディープテックを、ビジネスパーソンの視点でわかりやすく紹介するメディアです。

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら