Veneno Technologies|産業技術総合研究所発の「ジスルフィドリッチペプチド」を研究するバイオ系ディープテック企業

Veneno Technologies株式会社(ベネノテクノロジーズ)

Veneno「ジスルフィドリッチペプチド」を研究|研究領域=毒にも含まれる形の固いペプチド/強み=大腸菌の中で探索から生産まで/将来性=新薬や農薬・動物薬の素材へ

企業紹介|Veneno Technologiesとは?

クモやサソリの毒に含まれ、新しい薬や農薬の素材として、注目を集める「ジスルフィドリッチペプチド」。Veneno Technologiesは、その社会実装を目指す、産業技術総合研究所発のバイオ系ディープテック企業です。候補の探索から生産、評価までを担う創薬基盤「Veneno Suite」を使った共同研究を、製薬企業などへ提供しています。

キーワード「ジスルフィドリッチペプチド」

「ジスルフィドリッチペプチド」は、硫黄原子どうしの結合であるジスルフィド結合を分子内に3つ以上持つ、数十個のアミノ酸からなるペプチドです。特徴は、この結合で立体構造が固定され、消化酵素や熱、酸に強い点にあります。微量でも細胞の受容体に強く作用するため、医薬品や農薬、動物薬の素材として研究されています。

市場課題|膜タンパク質を狙う薬は作りにくい

現状の細胞膜の標的を狙う薬の課題|現状は、抗体で狙いにくく、ペプチドは合成で失敗しやすい/細胞膜の標的は抗体で狙いにくい/ペプチドの化学合成は失敗が多い

細胞膜の標的は抗体で狙いにくい

細胞膜にあるイオンチャネル(イオンの通り道)やGPCR(信号を受け取る受容体)は、抗体医薬(抗体を利用した薬)で狙うのが難しい薬の標的です。いずれも病気に関わる膜タンパク質(細胞膜に埋め込まれたたんぱく質)ですが、低分子医薬(小さな化合物の薬)でも薬を設計しにくく、副作用が問題になることがあります。その結果、薬の候補を得にくく、治療の選択肢が限られる恐れがあります。

ペプチドの化学合成は失敗が多い

膜の標的に作用する候補として研究が進むジスルフィドリッチペプチドは、化学合成では正しい立体構造のものを得にくい分子です。どの硫黄原子どうしを結ぶかを制御しにくく、誤った組み合わせが混ざりやすいためです。候補を多く試すほど、時間と費用もかさみます。

他にも、化学農薬が益虫や生態系に及ぼす影響、家畜の抗生物質で生じる耐性菌、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 膜タンパク質細胞膜に埋め込まれたたんぱく質で、物質の出入りや外からの信号の受け取りを担う。イオンチャネルやGPCRが代表である。多くの病気に関わる一方、膜から取り出すと形が崩れやすく、薬の標的として扱いにくい。

Veneno Technologiesの強み|「ジスルフィドリッチペプチド」を研究

Venenoが「ジスルフィドリッチペプチド」を研究|現在は、探索から生産までの創薬基盤を提供/大腸菌の中で候補を高速に選別/大腸菌の分泌で安定して生産

大腸菌の中で候補を高速選別

ジスルフィドリッチペプチドは期待を集めてきた一方で、膜タンパク質を標的として候補を効率よく探す手法が限られていました。

同社の「PERISS法」は、大腸菌の「ペリプラズム」(大腸菌の内膜と外膜の間の空間)にペプチドを提示させ、膜タンパク質に結合するものを選び出す探索法です。ペリプラズムは、ジスルフィド結合ができやすい環境。候補を大量にそろえた大規模なライブラリから、結合するペプチドを高速に選別できます。標的の膜タンパク質ごとに、結合する新しいペプチドを設計・創製する仕組みです。これにより製薬企業は、抗体や低分子では狙いにくかったイオンチャネルやGPCRに作用する薬の候補を探せるようになります。

大腸菌の分泌で安定生産

化学合成では、ジスルフィド結合を正しくつなぐ工程で失敗しやすく、候補を多く作るほど費用と時間がかさむという弱点がありました。

同社の「Super Secrete法」は、大腸菌にペプチドを作らせ、ペリプラズムへ分泌させる生産法です。ペプチドは結合を作りやすいペリプラズムで折りたたまれ、高い収量で安定して得られます。化学合成を使わない、簡便で安価な作り方です。合成とスクリーニングはロボットで自動化しています。これにより、正しい形に折りたたまれたペプチドを必要な量だけ用意できるようになり、見つかった候補の働きを確かめる試験を進めやすくなります。

FrontJournalの解説
  • ペリプラズム大腸菌などが持つ内膜と外膜に挟まれた空間である。酸化的な環境のため、硫黄原子どうしがつながるジスルフィド結合ができやすい。複雑なペプチドを正しい形に折りたたませる場として、探索と生産の両方に使われる。

ジスルフィドリッチペプチドの未来|医薬から農薬・動物薬へ

天然のジスルフィドリッチペプチドが変える未来|医薬から農薬・動物薬へ用途が広がる/製薬企業と新薬候補を探索/農薬や動物薬へ用途を拡大/人と動物と環境の健康を目指す

製薬企業と新薬候補を探索

同社の技術は、すでに製薬企業との共同研究で新薬の候補探しに使われています。2025年1月には、あすか製薬と、両社で選んだイオンチャネルに作用するペプチドを取得する共同研究契約を結びました。2025年7月には、アルファフュージョン、田辺三菱製薬と、放射性医薬品の共同研究を始めています。アスタチン211(α線を出す放射性同位体)を付けたペプチドでがん細胞を狙い、治療が難しかったがんに新しい選択肢を届けることが目標です。

農薬や動物薬へ用途を拡大

医薬品に加えて、同社が力を入れるのが農薬や動物薬への応用です。特定の害虫にだけ作用するペプチドの農薬は、益虫や生態系への影響を抑えられるとされています。動物向けには、天然のペプチドの一種である「ディフェンシン」を使った添加物や、抗生物質に代わる選択肢として耐性菌の問題に役立つ動物薬の開発を進めています。研究用の試薬として、ジスルフィドリッチペプチドを注文に応じて作る事業も始める計画です。

人と動物と環境の健康を目指す

同社が目指すのは、人と動物、地球環境の健康を一体で守る「One Health」(ワンヘルス)の実現です。医薬と動物薬、農薬に加え、生体に適合しやすいバイオマテリアル(生物由来の新素材)への展開も、同社の計画の一つです。AIによる配列の予測や、合成と選別の自動化で、探索の効率も高めています。同じ基盤を複数の分野で使えるため、治療が難しい病気の患者や農業、畜産の現場に、ペプチドを使った新しい選択肢が届く可能性があります。

会社概要|Veneno Technologies株式会社

産総研の研究から事業化

Veneno Technologiesは、2020年7月に茨城県つくば市で設立された、産業技術総合研究所(産総研)発のベンチャー企業です。創業者は、取締役 最高科学技術責任者の木村忠史氏です。木村氏は、産総研の前身にあたる工業技術院生命工学工業技術研究所に入所しました。同社の技術基盤は、クモやサソリ、ヘビの毒に含まれるジスルフィドリッチペプチドの研究から発展したものです。代表取締役は久野孝稔氏が務めています。

業務提携と認定・採択

同社は、事業の提携や認定、支援プログラムへの採択を重ねています。2025年11月には、大学などの研究成果を医薬品の候補へつなぐ体制の構築に向けて、モルミルと業務提携を結びました。産総研の技術の事業化を担う株式会社AIST Solutionsからは、認定第1号のベンチャーに選ばれています。2026年6月には、ライフサイエンス分野の新興企業の海外展開を支援する「The Masterclass Program by BioLabs – cohort2」に採択されました。

シードで2億円を調達

同社は2022年1月、シードラウンドの第三者割当増資による2億円の資金調達を発表しました。シードラウンドは、事業を立ち上げる時期に行う、ごく初期の資金調達段階にあたります。引受先はSBIインベストメント、筑波総研、SBI地域活性化支援の3社です。資金の使途は、研究員の採用や研究所の開設、探索と生産の技術の強化です。今後は2026年にシリーズA(事業を本格的に広げる段階の資金調達)を行い、2029年6月期の株式上場を目指しています。

会社情報

会社名Veneno Technologies株式会社(Veneno Technologies Co., Ltd.)
所在地茨城県つくば市千現二丁目1番地6
設立2020年7月
代表久野 孝稔(代表取締役)。木村 忠史(取締役 最高科学技術責任者・創業者)
調達シードラウンド 2億円(2022年1月発表)。引受先はSBIインベストメント、筑波総研、SBI地域活性化支援
事業ジスルフィドリッチペプチドをもとにした医薬品・農薬・バイオケミカルの研究開発。創薬基盤「Veneno Suite」を使った製薬企業との共同研究。動物向け添加物の開発
技術領域ジスルフィドリッチペプチドの探索(PERISS法)、大腸菌による生産(Super Secrete法)、活性の評価
連携あすか製薬(共同研究・2025年1月)。アルファフュージョン、田辺三菱製薬(共同研究・2025年7月)。モルミル(業務提携・2025年11月)
採択株式会社AIST Solutions 認定第1号ベンチャー。The Masterclass Program by BioLabs – cohort2(2026年6月)
URLhttps://veneno.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

毒というと危険なものを思い浮かべますが、生き物が長い進化の中で磨いてきた毒の成分は、狙った相手にだけ強く働く精密な分子でもあります。硫黄原子どうしの結合で形を固めた、クモやサソリの毒の小さなペプチドもその一つです。Veneno Technologiesは、その性質を持つジスルフィドリッチペプチドを、薬や農薬の素材として使える形にしようとしています。

印象的なのは、探索と生産を同じ大腸菌の仕組みでつないでいる点です。見つけた候補を同じ仕組みで作れるため、探索から試験までを一続きで進められます。同じペプチド医薬の分野ではペプチドリームが環状ペプチドで創薬を進めており、分子の種類ごとに探索の技術が育ちつつあります。

毒由来の分子が、人と動物と環境の健康を支える日が来るのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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