2026.09.08 分子科学研究所 元発表:2026.09.07

分子科学研究所ら、水溶液中のヘムタンパク質のスピン状態を観測

ニュース紹介

「水溶液中のヘムタンパク質のスピン状態の観測に成功 -ミオグロビン水溶液の軟X線吸収分光測定-」

自然科学研究機構 分子科学研究所/あいちシンクロトロン光センターの杉本泰伸研究員、理化学研究所 計算科学研究センター 量子系分子科学研究チームの水流翔太特別研究員、自然科学研究機構 分子科学研究所/総合研究大学院大学の長坂将成助教の研究グループは、ポルフィリン環のN K吸収端の軟X線吸収分光測定と内殻励起計算により、室温の水溶液中のミオグロビンのヘムのスピン状態を観測することに成功したと発表しました。

研究グループは、ポルフィリン環のC=N π*ピークが、ポリペプチド鎖に含まれる窒素原子の寄与に埋もれることなく観測されることを発見しました。測定は分子科学研究所UVSORの軟X線ビームラインBL3Uで、研究グループが独自に開発した溶液XAS測定システムを接続して行われました。

解析により、オキシミオグロビンは低スピン状態、デオキシミオグロビンはS=2とS=1のスピン平衡状態、メトミオグロビンはS=5/2とS=3/2のスピン平衡状態を示すことが分かりました。ヘムタンパク質のスピン状態は温度やポリペプチド鎖の影響を受けるため、機能を発現した状態でのその場測定が重要であることを示したとしています。本成果は国際学術誌『Physical Chemistry Chemical Physics』に8月24日付で掲載されました。

出典:理化学研究所 2026年9月7日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20260907_1/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

血液が赤いのは、赤血球ヘモグロビンに「ヘム」と呼ばれる鉄を含む部品が入っているからです。筋肉にはよく似たミオグロビンがあり、酸素をためる役割を担っています。

ヘムを持つタンパク質は、酸素を運ぶだけでなく、電子を受け渡したり化学反応を進めたりもします。役割の違いは、中心にある鉄の電子の並び方、すなわちスピン状態と深く関わっています。

①タンパク質の中では鉄の状態を測れなかった

軟X線吸収分光は、エネルギーの低いX線を当てて、炭素や窒素といった軽い元素の電子の状態を調べる方法です。窒素を狙えば、ヘムの中心にあるポルフィリン環の様子が読み取れます。

ところがタンパク質は、ポリペプチド鎖にも大量の窒素を含みます。そのため、ヘムの信号は鎖の窒素に埋もれて取り出せないと考えられてきました。結晶にしたり凍らせたりせず、水に溶けた状態のまま測る手段が限られていた理由がここにあります。

②環に由来するピークだけを取り出せた

研究グループは、分子科学研究所UVSOR軟X線ビームラインに、自作の溶液測定システムをつないで室温のミオグロビン水溶液を測りました。

その結果、ポルフィリン環のC=N π*と呼ばれるピークが、鎖の窒素の信号に埋もれずに現れることを見つけました。計算と突き合わせると、酸素が結合したオキシミオグロビンは低スピン状態、酸素が外れたデオキシミオグロビンはS=2とS=1が混ざった状態、鉄が酸化したメトミオグロビンはS=5/2とS=3/2が混ざった状態と判別できました。スピン状態が温度やポリペプチド鎖の影響を受けることも確かめています。

編集部からひとこと

タンパク質の構造は、結晶にして調べる方法が長く主役でした。今回の測定は、水に溶けて働いている状態のまま、中心の鉄の電子の様子を読み取ったものです。研究グループは、酸素の結合以外に電子伝達や触媒の働きも担うヘムタンパク質の研究で、その場測定が広がることを期待するとしています。

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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