2026.07.27
│
横浜国立大学・科学技術振興機構(JST)
│
元発表:2026.07.27
横浜国立大、超低摩擦材料の摩耗の起源を解明(FrontJournal解説)
ニュース紹介
「超低摩擦材料の摩耗の仕組みを解明~摩擦場の力学情報・空間情報・分子情報を同時に観測する新手法で明らかに~」
横浜国立大学大学院環境情報研究院の大久保光准教授らの研究グループは、摩擦場の力学情報・空間情報・分子情報の同時計測を可能とする独自の装置を開発し、超低摩擦材料である濃厚ポリマーブラシの摩耗の起源を分子レベルで解明しました。その結果、摩耗の起源はガラス相転移誘起の伸長ひずみであることが判明し、機械システムのより一層の省エネルギー化に向けた新たな摩擦制御技術の創製が期待されるとしています。
研究成果は米国化学会誌『ACS Applied Materials & Interfaces』に「Multimodal Operando Characterization of Layering and Wear at Concentrated Polymer Brush Interfaces」として掲載されました(DOI:10.1021/acsami.6c11287)。
出典:科学技術振興機構(JST) 2026年7月27日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260727/index.html
FrontJournalの解説
この研究分野について
機械の中で摩擦や摩耗(ものが擦れて削れていく現象)を扱う分野はトライボロジーと呼ばれます。ベアリング、シール、歯車、ハードディスクの磁気ヘッドといった機械要素は、常に相手部品と擦れ合って動くため、摩擦のエネルギー損失を減らし、摩耗による寿命の低下を抑えることが省エネと信頼性の両面で重要な課題になります。
その中で近年注目されているのが「濃厚ポリマーブラシ」という材料です。基板上に高分子鎖を高い密度で固定して、髪の毛のように立ち上げた薄膜で、良溶媒で膨潤させると水などの潤滑液の力を借りて、摩擦係数を極めて小さな値まで下げられることが知られています。実用機械への応用が進めば、機械の摩擦損失を下げて省エネルギー化する切り札として使える可能性があります。
①摩擦場を「同時に」見る新しい観測手法
濃厚ポリマーブラシは高い潤滑性能を示す一方、実際に何度も擦り合わせるとなぜ摩耗するのか、その分子レベルの仕組みは長らく分かっていませんでした。摩耗を理解するには、摩擦がかかっているときの「力」「膜の厚みや構造」「ポリマー分子の状態」を同時にとらえる必要がありますが、従来の装置ではこれらを別々にしか測れませんでした。
研究グループは、摩擦している界面に対して、力学情報(摩擦力・膜厚変化)と空間情報(層構造)、分子情報(振動分光)を同時に計測できる独自の装置を開発しました。プレスリリースによれば、この新しい観測手法によって、擦り合わせながらブラシ層の内部で何が起きているかを、その場で見ることが可能になったとしています。
②「ガラス相転移誘起の伸長ひずみ」が摩耗の起源
この装置で濃厚ポリマーブラシ界面を観察した結果、研究グループは摩耗の起源が「ガラス相転移誘起の伸長ひずみ」にあることを突き止めました。ポリマーは条件によってゴムのように柔らかい状態(ゴム状態)と、ガラスのように硬く動きにくい状態(ガラス状態)を行き来する性質を持ち、この転移を「ガラス相転移」と呼びます。
擦り合わせによってブラシ層内でこの相転移が誘発され、局所的にポリマー鎖が引き伸ばされる状態が生じ、これがブラシの破壊、すなわち摩耗につながっていることが明らかになりました。原因が特定されたことで、今後は相転移を起こしにくい設計や、伸長ひずみを逃がす分子構造の設計といった対策を通じ、ベアリング・シールなど機械要素の長寿命化と省エネルギー化に向けた新しい摩擦制御技術の創製が期待されます。
編集部からひとこと
本成果は、摩擦を減らすためのポリマー材料が「なぜ、どのように摩耗するか」を分子レベルで初めて説明した基礎研究であり、発表時点では特定の製品への実装スケジュールは示されていません。ベアリングやシール等への実装には、耐久性や量産性の検証など段階を踏む必要があります。詳細な条件や解析方法についてはJSTの公式ページと原著論文をご参照ください。
本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。
この企業の方へ
内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。
掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら