H2L株式会社は重さや抵抗感を伝える「固有感覚の共有」を研究する東京大学発の企業

H2L株式会社(エイチツーエル)

H2L「固有感覚の共有」を研究|研究領域=体の動きを読み取り・重さの感覚を伝える/強み=光で筋肉の動きを測り・電気刺激で重さを再現/将来性=ロボット操作や・技能の継承へ

企業紹介|H2L株式会社とは?

筋肉の動きを読み取り、重さや抵抗感を電気刺激で伝える技術である「固有感覚の共有」。H2L株式会社は、その社会実装を目指す東京大学発のAI・IoT系ディープテック企業です。筋肉の動きを光で読み取るコントローラ「FirstVR」や、座ったまま遠隔地のロボットを操作できる「カプセルインタフェース」等を開発しています。

キーワード「固有感覚の共有」

「固有感覚の共有」は、重さや抵抗感といった固有感覚を人やロボットとやり取りする技術です。筋肉の動きから手の動作を推定し、電気刺激でその感覚を相手側に生じさせる仕組みです。映像や音では扱いにくかった感覚を補い、遠隔操作や技能の継承への活用が研究されています。

市場課題|技能の継承やVRの場面で身体感覚が伝わりにくい

現状の身体感覚の伝達の課題|現状は、映像や言葉で力加減が伝わりにくく継承が難しい|力加減の技能は・継承が難しい/映像と振動では・重さを伝えにくい

力加減の技能は継承が難しい

製造や農業、スポーツの現場では、力の入れ具合のように言葉では伝えにくい技能を、どう次の担い手へ引き継ぐかが課題です。農業では、基幹的農業従事者(主に自営農業に従事する人)が2020年の約136万人から2025年の約102万人へ減りました。熟練者が引退して担い手が減ると、技能を教わる機会は限られ、技能が途切れる恐れがあります。

映像と振動では重さを伝えにくい

VR(仮想現実)の装置では、映像と振動だけでは物の重さを伝えにくいとされます。普及した装置は皮膚の触覚を伝えるものが中心で、固有感覚を提示する装置は研究段階が中心とされてきました。このままでは、仮想空間の物の存在感が得られにくいままです。

他にも、外骨格型装置(手に機械の骨組みを被せる装置)が複雑で高価な点、手袋型の装置が指先の皮膚感覚を妨げる点、外出が難しい人の就労機会の少なさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 固有感覚筋肉・腱・関節の受容器を通じて受け取る身体の感覚を指す。手足の位置や動き、物の重さ、押し返される力を知る手がかりになり、仮想空間の物の存在感や、身体を自分のものと感じる感覚を生むうえで重要とされる。

H2Lの強み|「固有感覚の共有」を研究

H2Lが「固有感覚の共有」を研究|今後は、光と電気刺激で重さの伝達が可能に|筋肉の膨らみから・力加減を記録/電気刺激で・重さや抵抗を再現

筋肉の膨らみから力加減を記録

従来の筋電(筋肉が出す電気信号を測る方法)は電極の装着が負担で、電気的なノイズの影響も受けやすく、カメラによる計測は手が物に隠れると動きを追いにくくなります。

H2Lは、光学式の筋変位センサ(筋肉の膨らみを光で測るセンサ)で、筋肉の動きに伴う腕の表面の変位を読み取ります。「FirstVR」は前腕の周囲に14チャンネルのセンサ群を並べ、使う人ごとに短時間の機械学習を行って、手の動きを推定します。このセンサは汗や電気的なノイズの影響を受けにくく、日常生活での継続利用を前提とした設計です。同社の筋変位センサは、筋肉の膨らみから手の動きや力の入れ具合を捉えるとされます。これにより、熟練者の動作と力の入れ具合をデータとして残せるようになります。

電気刺激で重さや抵抗を再現

振動子を使う従来の提示装置は、皮膚の表面を刺激して触れた感触を伝える仕組みのため、筋肉や関節で感じる重さまでは伝えにくい構造です。

H2Lは、前腕の電極から流す機能的電気刺激(電流で筋肉を収縮させる方法)で、筋肉そのものを動かします。筋肉が収縮すると筋肉や腱の受容器が働くため、使う人はその力を物を持ったときに近い重さや抵抗と感じるとされます。「PossessedHand」は28個の電極から14通りの刺激経路を選び、各指に平均88.75 g重(88.75 gの物を支えるときと同じ大きさの力)を生じさせます(2019年時点の値)。映像と振動では伝えにくかった仮想空間の物の重さを、自分の腕で感じ取ることができるようになります。

FrontJournalの解説
  • 筋変位センサ筋肉が動くときの盛り上がりを光で測るセンサを指す。電位ではなく形の変化を測るため、汗や電気的なノイズの影響を受けにくい。一方、手の動作は表面の変位から推定するため、データ処理が必要になる。

固有感覚の共有の未来|職場やロボット操作、技能の継承への応用

職場と現場の「固有感覚の共有」が変える未来|体調共有から、遠隔操作や技能継承へ|働く仲間の疲れを・可視化して共有/座ったまま遠隔の・ロボットを操作/体験データで・技能の継承を目指す

働く仲間の疲れを可視化して共有

2023年6月、H2Lは離れて働く仲間の体調共有に使うメタバースオフィス(仮想空間上の事務所)「BodySharing for Business」の正式提供を始めました。乃村工藝社との共同開発です。同サービスでは、腕に巻く「FirstVR」をふくらはぎに着け、その計測データから、肉体の疲れの目安となる「元気度」と、緊張の度合いの目安となる「リラックス度」を推定します。この2つの指標が、画面越しには見えにくい同僚の状態を知る手がかりです。

座ったまま遠隔のロボットを操作

2025年にH2Lが発表した「カプセルインタフェース」は、座るか仰向けになるだけで遠隔地のロボットを操作できる装置です。備え付けの筋変位センサが体の動きを読み取るため、装着型のセンサを身につけずに操作できるとされます。災害現場での遠隔作業や農作業の支援などが、想定される用途です。同社は今後、カプセルインタフェースで使う人へ固有感覚を返す技術の研究開発を予定しています。

体験データで技能の継承を目指す

同社は、動きや力加減を記録した体験データを技能の継承に生かすことを目指します。2025年提供の「Maaart」は、感覚情報を含む体験データの売買市場です。2026年6月にはアピリッツとの協業で、スポーツ指導や技能継承のAIに向けた「フィジカルAIトークン」(固有感覚・触覚・視覚・聴覚を統合したもの)の研究開発を進めています。2029年までに、製造や教育などの分野で体験共有の製品を展開する方針です。

会社概要|H2Lの事業内容と設立背景

東京大学の研究から事業化

H2L株式会社は、2012年7月に設立された東京大学発スタートアップです。創業の中心となったのは、東京大学大学院の暦本純一研究室ヒューマンコンピュータインタラクション(人とコンピュータのやり取りを扱う研究分野)を研究していた、玉城絵美氏と岩崎健一郎氏です。玉城氏は2011年に、電気刺激で指を動かす装置「PossessedHand」を国際学会 CHI 2011 で発表しました。現在は玉城氏が代表取締役CEOを務め、慶應義塾大学の教授も兼ねています。

国の事業採択と企業との連携

同社は、国の事業への採択と、通信や医療機器の企業との連携を重ねてきました。2017年にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の、企業と連携するスタートアップの事業化を支援する事業に採択され、内閣府の「SIP第3期」(国の研究開発プログラム)でも、バーチャルエコノミー(仮想空間での経済活動)に関する課題に採択されています。2019年にはNTTドコモと連携して5Gを使うサービスの創出に取り組み、2022年には伊藤超短波手指のリハビリ機器を共同開発しました。

2億円の調達と事業会社の出資

同社は2017年2月に、環境エネルギー投資が運営するファンドとSony Innovation Fundを引受先とする第三者割当増資(特定の相手に新株を発行して資金を得る方法)で、総額2億円を調達しました。2023年3月のトヨタ紡織からの出資は、固有感覚の伝達を生かした快適な車室空間(自動車の乗員が過ごす車内の空間)の開発が目的です。2026年6月にはアピリッツから2,080万円の出資を受けています。

会社情報

会社名H2L株式会社(H2L Inc.)
所在地東京都港区六本木3丁目4番21号
設立2012年7月2日
代表代表取締役CEO:玉城 絵美。共同創業:岩崎 健一郎
資本金396,005千円(2025年6月末時点)
調達2017年2月:総額2億円(環境エネルギー投資が運営するファンド、Sony Innovation Fund)。2023年3月:トヨタ紡織。2026年6月:アピリッツ(2,080万円・資本業務提携)
事業人の能力を引き出す支援ツール(ハードウェア・ソフトウェア・サービス)とAIの企画・研究・開発・製造・販売。主な製品「FirstVR」「UnlimitedHand」「PossessedHand」「カプセルインタフェース」「BodySharing for Business」「Maaart」「RaraaS」「HoloD」
技術領域光学式筋変位センサによる手の動作と固有感覚の検出。多電極の電気刺激による固有感覚の提示
連携NTTドコモ(2019年・連携)。伊藤超短波(2022年・手指のリハビリ機器を共同開発)。乃村工藝社(「BodySharing for Business」を共同開発)。PwC財団(遠隔農業の「RaraaS」を共同開発)
採択NEDO SCA(企業間連携スタートアップに対する事業化支援・2017年3月)。内閣府 SIP第3期「バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備」
URLhttps://h2l.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

映像と音のやり取りは、通信の発達で当たり前になりました。重さや手応えといった身体感覚は、その先に残された領域です。H2Lは、この領域にセンサと電気刺激の両面から取り組んでいます。

注目したいのは、身体の感覚を読み取る技術と伝える技術を、一つの会社で持っている点です。職場で同僚の疲れを知る、座ったままロボットを動かす、体験を記録して売買する、と用途は広がっています。その土台にあるのは、感覚をデータとして扱える技術です。

熟練者の力加減が、距離や世代を越えて伝わる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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