ファーマコセル「血液脳関門モデル」を開発

ファーマコセル株式会社

ファーマコセル「血液脳関門モデル」を開発

企業紹介|ファーマコセル株式会社とは?

薬の候補物質が脳へ届くかを、動物に投与する前に培養細胞で見積もる「血液脳関門モデル」。ファーマコセル株式会社は、その社会実装を目指す、長崎大学発のバイオ系ディープテック企業です。脳の細胞3種を組み上げて凍結した「BBBキット」(BBBは血液脳関門の英語名の略)の販売と、それを使った脳移行性(薬の脳への移りやすさ)試験の受託を手がけています。

キーワード「血液脳関門モデル」

「血液脳関門モデル」は、脳の血管にある血液脳関門(血液中の物質が脳へ入るのを制限する仕組み)を、培養細胞で再現した実験系です。膜の片側に候補物質を入れ、反対側へ通り抜けた量を測ると、その物質が脳へ移りやすいかを見積もれます。薬物の脳移行性の評価や、血液脳関門の基礎研究に使われています。

市場課題|脳に効かせる薬は、血液脳関門を越えなければ届かない

現状の脳に効く薬の開発の課題

細胞株では到達を見誤る恐れ

試験管内で脳への届きやすさを調べる際、細胞株(培養を続けられるようにした細胞)だけの評価では、結果を見誤る恐れがあります。腎臓や小腸に由来する細胞株は血液脳関門に特有の性質を持たず、脳の血管に由来するものも細胞株にするとバリア機能(物質の通過を制限する働き)を失いやすいためです。このままでは、脳に届かない物質の開発を進める恐れがあります。

生体に近い細胞は準備に手間

初代培養(生体から取り出した細胞を育てる方法)は、生体内の機能を保ちやすい一方、準備に手間がかかります。関門の働きには血管を取り巻く細胞も関わるため、生体に近いモデルではそれらも脳から取り出して育て、内皮細胞と組み合わせることになります。この負担のため、評価の開始までに時間がかかる点が課題です。

他にも、ヒト脳細胞の入手、幹細胞からの内皮細胞作製、多数の物質の自動評価、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 血液脳関門脳の毛細血管にある、血液中の物質が脳へ入るのを制限する仕組みである。血管の内側を覆う内皮細胞が隙間なく結合し、血管を取り巻く細胞がその働きを支えている。脳を守る一方、多くの薬の脳への移行も妨げる。

ファーマコセルの強み|「血液脳関門モデル」を開発

ファーマコセルが「血液脳関門モデル」を開発

3種の細胞で関門を再現

細胞株や1種類の細胞だけの培養では、脳の血管が物質を通しにくくする働きを十分に再現しにくくなります。

同社の「BBBキット」は、脳毛細血管内皮細胞(毛細血管の内側を覆う細胞)に、ペリサイト(血管を外側から包む細胞)とアストロサイト(脳の神経細胞を支える細胞)を組み合わせた血液脳関門モデルです。3種類の細胞を膜を挟んで一緒に育てる共培養で、ペリサイトとアストロサイトが内皮細胞の関門の働きを支える仕組みです。TEER(細胞層の電気抵抗)は値が高いほど隙間が閉じていることを示し、このキットでは150Ω・cm²以上を保持しています。動物に投与する前に、脳へ移りやすい候補物質を絞り込むことができます。

凍結した完成品で届ける

初代培養のモデルは、細胞を取り出して育てる準備に手間がかかり、すぐには試験を始めにくくなります。

同社は、3種類の細胞を培養器材の上で組み上げた状態のまま凍結し、-80℃で保存できる完成品にしています。解凍後に測ったTEERでも、関門の働きは保たれています。手順どおりに培養液を交換すれば、解凍から4日目以降に試験に使える製品です。細胞がすべてラット由来の型に加え、内皮細胞にカニクイザル(霊長類の実験動物)の細胞を使ったサル型もそろえています。研究者は細胞を脳から取り出す工程を省き、必要な時期に解凍して血液脳関門の試験を始めることができます。

FrontJournalの解説
  • 共培養種類の異なる細胞を、同じ培養環境で一緒に育てる方法である。細胞どうしが出す物質などによって、単独で育てるより生体に近い性質を引き出せる。血液脳関門モデルでは、内皮細胞の関門の働きを保つために用いる。

血液脳関門モデルの未来|受託試験から、ヒト型の関門モデルへ

細胞の血液脳関門モデルが変える未来

脳移行性試験を受託

同社は、BBBキットを使った脳移行性試験の受託をすでに行っています。依頼者が候補物質を送ると、同社がラット型のキットに入れ、15分後に血管側と脳側の液を回収して返送する流れです。依頼者が測った濃度をもとに、同社が透過係数(物質が細胞層を通り抜ける速さ)から脳への移りやすさを判定します。キットを自ら扱う体制がない企業や研究機関でも、脳移行性のデータを得られます。

自動評価向けキットを開発中

HTS(ハイスループットスクリーニング)に対応したBBBキットは、同社が開発中の製品です。HTSは、多数の化合物を自動の装置で並行して調べ、有望な候補を絞り込む方法です。BBBキットを扱うイワキ株式会社が、試作品の評価に協力する企業を募っています。実現すれば、創薬の初期に多くの候補物質から脳へ移りやすいものを一度に絞り込めるようになります。

ヒト型のキットを目指す

同社は、ヒトの細胞で血液脳関門を再現するヒト型BBBキットの開発を目指しています。細胞の材料となるヒトの脳は入手できないため、iPS細胞(さまざまな細胞に変化できる幹細胞)などから関門を担う細胞を作製することが前提です。開発は国内外の研究機関との共同研究で進められていますが、脳の血管の内皮細胞は特殊な性質を持つため、幹細胞から作り出すには課題が多い状況です。ヒト型が実現すれば、動物との種差(動物とヒトの体の違い)を減らした評価が可能になり、ヒトの脳へ届く薬の候補を選び出しやすくなります。

会社概要|長崎大学の研究から生まれたファーマコセル

長崎大学の名誉教授が経営

同社は、長崎大学の名誉教授である丹羽正美氏が代表取締役社長を務める企業です。取締役の田川泰氏も長崎大学の名誉教授です。同社は2005年2月に設立され、経済産業省の大学発ベンチャーデータベースには、長崎大学と福岡大学の研究成果を活用したベンチャーとして掲載されています。公式サイトには、関連する施設として長崎大学医学部の薬理学教室や長崎大学病院の脳神経外科が挙げられています。

海外の研究者と共同で開発

BBBキットは、同社とハンガリーの研究者マリア・A・デリ氏が開発したモデルです。デリ氏はハンガリー生物工学研究所の研究室長で、同社の特別顧問を務めています。ラットの3種類の細胞を使う血液脳関門モデルについては、丹羽氏やデリ氏らを共著者とする論文が、2009年に学術誌『Neurochemistry International』に掲載されました。

キット販売と受託試験が柱

同社の主な事業は、BBBキットの開発・販売と、キットを使った脳移行性試験の受託です。加えて、キットを使って脳へ移行しやすい薬物の開発にも取り組んでいます。製品はラット型とサル型のほか、膜の素材や穴の大きさが異なる型をそろえ、細胞の観察や病気の状態の再現に向く型もあります。2021年には、細胞培養インサート(培養皿に差し込んで使う、膜付きの容器)「cellQART」の取り扱いも始めました。

会社情報

会社名ファーマコセル株式会社
所在地長崎県長崎市千歳町6番19号(第一千秀ビル2階)
設立2005年2月
代表代表取締役社長 丹羽正美(長崎大学名誉教授)
資本金7,148万5千円(2007年2月時点。公式サイト掲載)
従業員4名(公式サイト掲載)
事業血液脳関門モデル「BBBキット」の開発・販売。BBBキットを用いた薬物脳内移行性試験の受託。BBBキットを用いた脳内移行性薬物の開発。製品はラット型(RBT-24H ほか)とサル型(MBT-24H ほか)で、いずれも-80℃で凍結保存した完成品(2026年10月時点の公式サイト掲載)
技術領域脳毛細血管内皮細胞・ペリサイト・アストロサイトの共培養による血液脳関門の再構成
連携長崎大学(関連施設として公式サイト掲載)。イワキ株式会社(BBBキットの製品紹介)
URLhttps://www.pharmacocell.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

脳を守る仕組みが、脳に効かせたい薬の通過も制限する。ファーマコセルのBBBキットは、その関門を培養皿の上に再現し、薬が脳へ届くかを動物実験の前に確かめる道具です。長崎大学の研究者が携わってきた血液脳関門の研究が、凍結して届けられる製品の形になった点に、大学発の技術らしさを感じました。

3種類の細胞をそろえて育てる手間を、解凍して使う手順に置き換えたことは、血液脳関門の研究に入る研究室の裾野を広げるものだと思います。ヒトの細胞で作る関門が実現すれば、脳の病気に挑む創薬の進み方が変わるかもしれません。長崎の企業が届けるキットが、脳に届く薬を見つける入り口として使われ続けることを楽しみにしています。長崎大学から生まれたほかの企業は、長崎大学発スタートアップ10選で紹介しています。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら

この企業について、
もっと深く知りたい方へ

パートナーシップ・お問い合わせはこちらから。