TSK「鉄触媒」を開発|鉄原子と配位子の分子模型・カルバゾール・フラスコのイラスト

株式会社TSK(ティーエスケー)

TSK「鉄触媒」を開発|研究領域=レアメタルの代わりに・鉄を触媒に使う/強み=鉄と配位子の・組み合わせを設計/将来性=農業と有機ELから・素材産業へ展開

企業紹介|株式会社TSKとは?

レアメタル(希少金属)に頼らず化合物を合成する技術として、研究が進む「鉄触媒」。株式会社TSKは、その社会実装を目指す、京都大学発の素材系ディープテック企業です。鉄触媒を使った有機EL(有機化合物が自ら発光する表示技術)の材料の開発を韓国のサムスンディスプレイと共同で進め、農業資材「鉄フルボさん」も製造・販売しています。

キーワード「鉄触媒」

「鉄触媒」は、レアメタルではなく鉄を、反応を進める触媒に使う技術です。鉄は制御しにくいため、有機合成(化合物を組み立てる化学)ではパラジウム(レアメタルの一種)やニッケルなどが使われてきました。TSKは鉄と配位子(鉄に結合して反応を調整する分子)の組み合わせを設計して反応を制御し、レアメタルに依存しない合成を進めます。

市場課題|触媒にレアメタルが使われる一方、代替の鉄は制御しにくい

現状の触媒の課題|現状は、鉄の制御が難しくレアメタルの調達に不安|レアメタル触媒は・調達に不安/鉄は反応の・制御が難しい

レアメタル触媒は調達に不安

高性能な触媒に使われるレアメタルは、供給に不安があります。電子材料や医薬品の触媒には、パラジウム、白金、ロジウムなどが使われてきましたが、埋蔵量が限られ、産地も特定の地域に偏っています。このままでは、価格の高騰や調達の遅れが起こり、素材の製造に影響が及びかねません。

鉄は反応の制御が難しい

有機合成の分野では長く、鉄は反応の制御が難しく、実用的な触媒には向かないと考えられてきました。鉄を使う反応は副反応(目的以外の物質が生じる反応)が多く、反応の経路も複雑なためです。代替が進まなければ、製造方法の選択肢はレアメタルを使うものに限られがちです。

他にも、レアメタルの採掘や精製の過程で生じる環境への負荷、パラジウムの主な原産国がロシアと南アフリカに偏っていること、電池や樹脂、塗料の製造でも触媒にレアメタルが使われてきたこと、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 触媒それ自身は変化せずに、化学反応を進みやすくする物質を指す。反応に必要なエネルギーを下げ、目的の化合物を効率よく得るために使われる。

TSKの強み|「鉄触媒」を開発

TSKが「鉄触媒」を開発|これまでに、鉄で有機EL材料の骨格合成を実現|レアメタルを・鉄に置き換える/鉄の反応を・設計して制御

レアメタルを鉄に置き換える

有機EL材料の合成には従来、パラジウムを触媒にするクロスカップリング反応(2種類の分子を結ぶ反応)が使われてきましたが、この触媒では合成が難しい分子構造があります。

同社は、パラジウムの代わりに鉄を触媒に使う有機合成技術を開発しました。パラジウムを使う方法とは、原料の組み合わせや触媒と一緒に加える成分が異なり、鉄の性質に合わせて反応を設計します。有機EL材料では、既知の化合物の合成方法を改良したほか、鉄触媒を使った新材料も合成し、既存品に比べて性能とコストの面で優位性があるとされています。工程の簡略化が見通せ、パラジウムでは難しかった分子構造も組み立て可能です。鉄への置き換えが進めば、レアメタルの調達や価格に左右されにくい製造ルートの幅が広がる見通しです。

鉄の反応を設計して制御

鉄を使う反応は、目的の化合物が得られる条件の幅が狭く、条件がわずかにずれると得られにくいことが、実用化の壁でした。

同社は、鉄と配位子の組み合わせを設計し、反応のカギとなる電子・スピン状態(鉄原子の電子の配置と向き)を制御します。原料と反応条件を細かく決めることで、鉄でも目的の化合物を合成できます。空気を酸化剤(反応で相手の電子を受け取る物質)に使う鉄触媒で、窒素を含む環状の分子カルバゾールを二量化(2分子を結合)する反応も実現済みです。条件を設計できる鉄触媒が使えれば、鉄で合成できる化合物の範囲が広がる見込みです。

FrontJournalの解説
  • 配位子金属の原子に結合し、その電子の状態や反応のしやすさを調整する分子やイオンを指す。触媒では配位子を選ぶことで、反応の進み方や得られる化合物を制御できる。

鉄触媒の未来|農業資材の発売から、有機ELと素材産業全体へ

素材製造の鉄触媒が変える未来|農業資材の発売から、有機ELと素材産業へ|「鉄フルボさん」を・発売しました/青色有機ELの・材料を共同開発/素材産業全体へ・展開を目指す

フルボ酸の農業資材を発売

同社は2025年3月10日に、フルボ酸(自然界に存在する有機酸)を主成分とする農業資材「鉄フルボさん」を発売しました。バイオスティミュラント(作物が本来持つ力を引き出し、生育を助ける資材)に分類され、根張りの活性化や養分吸収の補助、土壌環境の改善が期待される資材です。同社は製材時に出る杉の樹皮を原料に、鉄触媒の技術で、自然界で長い年月をかけて進む酸化の過程を、水中で短期間に再現します。フルボ酸には肥料の使用量を減らす効果があるとされ、農業の現場へ提供します。

青色有機ELの材料を共同開発

青色有機EL材料の開発を、同社はサムスンディスプレイと共同で進めています。青色は有機ELの中でも実現が難しく、効率と寿命の向上が目標です。両社と韓国の大学教授の共同研究では、鉄触媒で合成した骨格をもとにした化合物を、電子の漏れを防ぐ層に使った青色の素子(発光する部品)で、寿命の目安である初期の明るさの6割まで下がる時間が114〜118時間と、比較対象の素子のおよそ3.5倍になりました。試験用の素子での結果で、製品への採用はこれからです。

素材産業全体への展開を目指す

同社は、鉄触媒の技術を有機ELから素材産業全体へ広げることを目指しています。電子材料、電池・蓄電材料、医薬・化成品の中間体といった領域への展開が構想です。フルボ酸も、農業以外の美容分野や水産養殖などへの展開を視野に入れます。レアメタルに依存しない製造が広がれば、素材の供給が産地に左右されにくくなる見込みです。

会社概要|京都大学の鉄触媒研究から2021年に設立された素材開発企業

鉄触媒研究を源流に設立

株式会社TSKの源流は、中村正治教授が1996年に東京大学(中村栄一研究室)で始め、2006年から京都大学化学研究所の研究室で続けている鉄触媒の研究です。2020年4月からは、京都大学のインキュベーションプログラム(起業を支援する制度)で事業性検討が行われ、2021年7月に設立されました。代表取締役の孫恩喆氏は、京都大学大学院を修了し、積水化学工業とサムスンディスプレイを経て同社を設立しました。2025年12月には、本社を京田辺市へ移し、本社と研究拠点を集約しています。

共同開発の公表と京都府の認定

TSKは2025年11月に、サムスンディスプレイと青色有機EL材料の共同開発を本格的に進めると公表しました。サムスンディスプレイがベンチャー企業を共同開発のパートナーに選ぶのは、初の事例とされています。両社と韓国の大学教授の共同研究の論文は、国際学術誌『Communications Materials』に掲載されました。同年12月には、鉄触媒技術を基盤としたフルボ酸製品群が、京都府が環境配慮や先進技術の面で優れた製品を認定する「京都スマートプロダクト」に認定されています。

1億円の第三者割当増資

2022年に、京都大学イノベーションキャピタルを引受先とする1億円の第三者割当増資(特定の出資者に新株を発行して資金調達する方法)を実施しました。京都大学イノベーションキャピタルは、京都大学が全額出資するベンチャーキャピタル(成長前の企業に出資する投資会社)です。2023年9月には、京都銀行グループの「京銀輝く未来応援ファンド3号」も、2,000万円を出資しました。

会社情報

会社名株式会社TSK(TSK Corporation)
所在地京都府京田辺市興戸地蔵谷1番地 D-egg 207号室
設立2021年7月
代表代表取締役 孫恩喆。取締役 中村正治(最高技術責任者。京都大学化学研究所 教授)
資本金4,000万円
従業員7名
調達京都大学イノベーションキャピタルを引受先に1億円の第三者割当増資(2022年)。京銀輝く未来応援ファンド3号が2,000万円を出資(2023年9月)
事業鉄触媒を用いた機能性材料の研究開発。有機EL材料の合成。フルボ酸の農業資材「鉄フルボさん」の製造・販売
技術領域鉄触媒による有機合成。電子・スピン状態の制御
連携サムスンディスプレイ(青色有機EL材料の共同開発。2025年11月に公表)
採択京都スマートプロダクト(2025年12月に認定)
URLhttps://tsk.kyoto/

編集後記|FrontJournal編集部より

鉄は身近でありふれた金属ですが、有機合成の触媒としては長く扱いにくいとされてきました。TSKは、鉄と配位子の組み合わせを設計して反応を制御するという方法で、鉄を実用的な触媒にすることに取り組んでいます。レアメタルが主役だった触媒の世界に、ありふれた鉄が候補として加わろうとしています。

同じ有機EL材料の分野では、九州大学発の株式会社Kyuluxが、発光材料そのものを開発しています。TSKは、有機EL材料の合成に使う鉄触媒の技術を軸に、青色有機EL材料の共同開発を進めています。役割の異なる2社は、ともに大学発の技術で有機ELに関わる企業です。

杉の樹皮から生まれた「鉄フルボさん」が畑に届き、鉄触媒で合成した化合物が有機ELの製品に採用される日。レアメタルに依存しない素材製造が広がっていく未来を、楽しみに待ちたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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