2026.10.11 │ 理化学研究所・国立長寿医療研究センター │ 元発表:2026.10.09

理化学研究所ら、分子スイッチCdc42の活性化を増幅する仕組みを解明

ニュース紹介

「細胞の分子スイッチが次々と活性化を呼び込む仕組み-分子スイッチCdc42のシグナル増幅機構を構造から解明-」

理化学研究所(理研)生命医科学研究センタータンパク質機能・構造研究チームの白水美香子チームディレクター、久野玉雄専任研究員、篠田雄大研究員、新野睦子上級技師らと国立長寿医療研究センターの共同研究グループは、細胞の形態や運動を制御する分子スイッチCdc42を活性化するタンパク質DOCK11が、いったん活性化したCdc42を利用して自身を細胞膜上に安定化させ、さらにCdc42の活性化を促進する「正のフィードバック機構」の分子レベルの仕組みを明らかにしたと発表した。クライオ電子顕微鏡法で複合体の立体構造を決定した結果、不活性型Cdc42を活性化させる触媒ドメイン(DHR2ドメイン)とは離れたARMドメインに、活性型Cdc42が直接結合していた。人工脂質膜を用いた実験では、膜に結合した活性型Cdc42があるとDOCK11のCdc42活性化能が約2.5倍に高まった。細胞膜を模倣した脂質膜上では、DOCK11は溶液中で主に見られるU字型から脂質膜に沿って伸びた構造へ変化した。研究グループは、DOCK11が関与する先天性免疫異常症やB型肝炎ウイルス感染など、疾患の分子機構の理解や将来的な創薬研究の基盤となることが期待されるとしている。成果は科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』オンライン版に10月6日付で掲載された。

出典:理化学研究所 2026年10月9日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20261009_1/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

細胞は外から受け取った情報を内側へ伝え、形や動きを変えています。その中継役の一つが低分子量Gタンパク質(GDPやGTPという分子と結合して働く小さなタンパク質)です。GDPと結合している間はオフ、GTPと結合するとオンになるため、分子スイッチと呼ばれます。

スイッチをオンにするのがGEF(グアニンヌクレオチド交換因子=GDPを外してGTPと入れ替える反応を進めるタンパク質)です。DOCKファミリーはこのGEFの一群で、哺乳類には11種類あり、DOCK11は主にCdc42をオンにします。

①「作ったもの」が次の反応を後押しする

今回の研究の核心は、DOCK11が2つのCdc42を別々の場所で同時につかめると示した点です。これからオンにするCdc42は触媒部分に、すでにオンになったCdc42はARMドメイン(ほかのタンパク質を認識する足場になりやすい繰り返し構造の領域)に結合します。オンになったCdc42がDOCK11を膜に引き留めるため、DOCK11は次のCdc42を効率よくオンにできます。反応の産物が反応を加速させる、という意味で正のフィードバック(結果が原因をさらに強める仕組み)と呼ばれます。

②膜の上で構造を観察した

構造解析にはクライオ電子顕微鏡法(試料を急速凍結して電子顕微鏡で撮影し、立体構造を求める手法)が使われました。研究グループは観察用の基板の上に人工脂質膜を張り、その上でDOCK11とCdc42を組み立てて観察しています。溶液中ではU字型だったDOCK11が、膜の上では大きく伸びた形になり、膜と結合する部位が膜面に沿って並びました。研究グループは、この手法が膜と関わって働くタンパク質の解析にも応用できるとしています。病気との関係はまだ分子機構の理解の段階であり、治療法に直結する成果ではありません。

編集部からひとこと

細胞の中で信号がどう増幅されるかを、膜の上という実際に近い環境で、構造として捉えた点が興味深い研究です。膜の上で働くタンパク質は扱いが難しく、観察手法そのものがほかの研究にどう使われていくかにも注目したいと思います。

FrontJournal編集部

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