2026.10.11 │ 東京大学・グラスゴー大学・シェフィールド大学・埼玉大学・日本電子株式会社・神戸大学・自然科学研究機構 分子科学研究所・科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.09

東京大学ら、多孔性金属錯体(MOF)中の電子スピンを光で検出

ニュース紹介

「多孔性金属錯体(MOF)中の電子スピンの光検出を初めて実証~高感度なケミカル量子センシングに向けた重要な一歩~」

東京大学大学院理学系研究科の井上魅紅大学院生、石井航大学院生、楊井伸浩教授らの研究グループは、グラスゴー大学、シェフィールド大学、埼玉大学、日本電子株式会社、自然科学研究機構 分子科学研究所、神戸大学の研究者と共同で、多孔性金属錯体(MOF)中に生成した励起三重項の電子スピンを光で検出できることを初めて実証したと発表した。

研究グループは、フリーベースポルフィリンを配位子としたMOFを合成し、光照射で生じる配位子由来の励起三重項スピンを、光検出磁気共鳴(ODMR)測定によって検出した。結晶構造は電子線回折で確認し、パルスESR測定ではスピン―スピン緩和時間(T2)が励起光強度に応じて0.78μsから数μsの間で変化した。ゼロ磁場でマイクロ波を掃引すると、特定の周波数で発光強度が変化し、そのエネルギー分裂幅はESR測定から求めた値とよく一致したという。

研究グループは、MOFとODMRを組み合わせた高感度な化学物質の量子センシングに向けた一歩になるとしている。成果は『urnal of the American Chemical Society』に掲載された。本研究は科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 CREST、先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)、戦略的創造研究推進事業 さきがけなどの支援を受けた。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年10月9日 プレスリリース(論文:Optically Addressable Spins in a Metal-Organic Framework/掲載誌:Journal of the American Chemical Society/DOI: 10.1021/jacs.6c12867)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261009/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

量子センシング(電子や原子核のスピンなどの量子状態が周囲の環境に敏感に反応する性質を使い、磁場や温度、化学物質などを測る技術)では、ンの状態をどう読み出すかが要になります。代表的な方法の一つが光検出磁気共鳴(ODMR)で、マイクロ波を当てたときの発光の強さの変化からスピンの状態を読み取ります。マイクロ波で直接検出する電子スピン共鳴(ESR)と比べ、高い感度と空間分解能で測れるとされます。

光で読み出せるスピンの代表例は、ダイヤモンド中の窒素―空孔中心(NV中心。炭素原子の一部が窒素と空孔に置き換わった欠陥)です。ただし結晶の欠陥を使うため、スピンの位置を自在に決めにくく、外部の物質との相互作用も弱いという課題がありました。

①分子を組み立ててスピンの配置を決める

多孔性金属錯体(MOF。金属イオンと有機分子が規則正しくつながり、内部に無数の細かい孔をもつ結晶)は、つなぐ有機分子を選ぶことで構造を設計できる材料です。スピンをもつ分子を骨格に組み込めば、スピンの位置や向きを結晶の中でそろえられます。さらに孔の中に検出したい分子を取り込めば、スピンのすぐ近くで相互作用させられると期待されています。

MOFを量子センシングに使う研究はこれまでもあり、2022年には米国のグループが、MOFに組み込んだラジカルを使い、溶液中のリチウムイオンを室温で検出した成果をJournal of the American Chemical Societyに報告しています。ただしこの読み出しはESRによるもので、今回はMOF中のスピンを光で読み出した点が異なります。

②光で読めることがセンサー設計の出発点に

今回の測定では、主にりん光(光を吸収した分子が、時間をおいて放つ光)の強さがマイクロ波によって変化する仕組みが示されました。量子センサーとして使うには、スピンが量子コヒーレンス(重ね合わせの状態)を一定時間保つ必要があり、研究グループは今回のMOFで十分な長さを確認したとしています。

研究グループは、配位子や結晶構造を変えた多様なMOFを検証して量子センサーのライブラリーを構築し、その応答パターンから特定の化学物質を高感度に検出することを今後の目標に掲げています。現時点は検出の原理を示した段階であり、実際の化学物質を測る実証はこれからの課題です。

編集部からひとこと

量子センサーといえばダイヤモンドの話題が中心でしたが、今回の成果は、分子を組み立てて作る材料でもスピンの光読み出しが成り立つことを示しました。孔に分子を取り込めるMOFの性質と組み合わさることで、化学物質を見分けるセンサーへどこまで近づけるか、今後の検証に注目したい研究です。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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