2026.11.02 │ がん研究会・名古屋大学・広島大学・科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.28

がん研究会ら、DNA複製で誤りがちな酵素が働く場所を解明

ニュース紹介

「ヒトのDNA複製で「誤りがちな酵素」が働く場所を解明~DNAポリメラーゼηは複製のラギング鎖と後期領域で働き、がんゲノムの変異分布とも関連する~」

がん研究会がん研究所のLewis Bainbridge博士研究員と大学保一プロジェクトリーダーらは、名古屋大学環境医学研究所の増田雄司准教授(広島大学兼任)、益谷央豪教授らとの共同研究により、DNAポリメラーゼη(Polη:イータ)がヒトのDNA複製で機能する領域をゲノム全体にわたって同定しました。Polηは紫外線によるDNA損傷を乗り越える酵素で、欠損すると高発がん性遺伝疾患である色素性乾皮症を発症することが知られています。

外部から損傷ストレスを与えていない細胞でも、Polηは断続的に合成される「ラギング鎖」で優先的に働き、複製後期のゲノム領域で多く使われていました。DNAポリメラーゼの台車の働きをするPCNAの結合はラギング鎖合成に、PCNAのユビキチン化は複製後期領域での使用増加に必要でした。がん患者由来のゲノムデータの解析では、複数のがん種でPolηに由来すると考えられる変異の分布が、Polηの合成領域と整合しました。本研究成果は2026年10月28日(現地時間)付で、学術誌「Nature Communications」に掲載されました(DOI:10.1038/s41467-026-78467-z)。

出典:がん研究会・名古屋大学・広島大学・科学技術振興機構(JST) 2026年10月28日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261028-2/index.html

FrontJournalの解説

DNA複製と「誤りがちな酵素」とは

細胞が分裂する前には、DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素がDNAを写し取り、遺伝情報を複製します。二本鎖のうち一方は連続して合成され、もう一方のラギング鎖は短い断片を少しずつつなぐ形で合成されます。

今回の主役であるPolηは、紫外線で傷ついたDNAを読み越して合成を続ける「損傷乗り越え合成」を担う酵素として知られてきました。損傷に柔軟に対応できる反面、複製の精度が低く、写し間違いを生じやすい性質があります。

①損傷のない細胞でもラギング鎖で働く

研究グループは、Polηが働く領域をゲノム全体で調べ、外部から損傷を与えていない細胞でも通常の複製に関わっていることを突き止めました。働く場所はラギング鎖に偏り、DNA合成期の後半に複製される複製後期の領域で使用が増えていました。

この働きを支えるのが、DNAポリメラーゼを載せて動く台車のようなたんぱく質PCNAです。ラギング鎖での合成にはPCNAとの結合が、複製後期での使用増加にはPCNAに目印を付けるユビキチン化が必要と分かりました。

②がんゲノムの変異分布との関連

研究グループは、がん患者由来のゲノムデータを使い、Polηの合成に由来すると考えられる変異がどこに多いかを検証しました。複数のがん種でその分布がPolηの合成領域と整合し、一部のがんでは特定の塩基置換変異(DNAの塩基が別の塩基に置き換わる変異)が多く見られました。

PCNAをユビキチン化する酵素の発現量との関連も認められています。プレスリリースは、Polηが通常の複製を通じて変異生成の原因にもなっていることを示唆すると述べています。

FrontJournalからのひとこと

Polηはこれまで、紫外線による損傷から細胞を守る酵素として語られてきました。今回の成果は、同じ酵素が日常の複製で変異の源にもなり得るという二つの側面を、ゲノム上の位置とともに示しています。がんの変異の成り立ちを読み解く手がかりとして、今後の研究の広がりに注目します。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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