BeCellBar「タイトジャンクション」を研究|細胞のすきまを描いたイラスト

合同会社BeCellBar(ビーセルバー)

BeCellBar「タイトジャンクション」を研究|研究領域=細胞のすきまを・薬で開閉する/強み=細胞膜を壊さず・すきまを開く/将来性=医薬品から・化粧品へ

企業紹介|合同会社BeCellBarとは?

飲み薬や貼り薬で有効成分を届ける鍵として、注目を集める「タイトジャンクション」。合同会社BeCellBarは、その社会実装を目指す、名古屋大学発のバイオ系ディープテック企業です。細胞のすきまを開閉する化合物の探索を、製薬企業や化粧品メーカーへ受託研究として提供しています。

キーワード「タイトジャンクション」

「タイトジャンクション」は、隣り合う細胞どうしをすきまなく密着させる結合構造で、皮膚や腸の表面でバリアの役割を担います。特徴は、この結合が固定されたものではなく、細胞の側から開いたり閉じたりできる点です。この開閉を薬で制御できれば、注射以外の経路から有効成分を体内へ届ける道が開けると期待されています。

市場課題|中分子医薬品は注射に頼り投与の負担が続く

現状の投薬の課題|現状は、分子が大きく吸収されにくく注射に頼っている|中分子の薬は・注射に偏る/吸収促進剤は・設計の指針が乏しい

中分子の薬は注射に偏る

ペプチド(アミノ酸がつながった分子)を有効成分とする中分子医薬品は、投与経路が注射に偏っています。皮膚から入る分子の大きさには分子量500程度という目安があり、中分子はこれを上回るうえ、飲み薬にしても消化管の酵素で分解されるためです。通院して注射を受ける負担が重なり、治療を長く継続しにくくなります。

吸収促進剤は設計の指針が乏しい

薬の吸収を助ける吸収促進剤は、設計の指針が乏しいままです。どの成分がどのタンパク質へ作用して結合構造をゆるめるのか、分子の段階で確かめられた例が限られるためです。作用する相手が特定できないまま探索を進めると、効き目と安全性の両立に時間がかかります。

他にも、開いたすきまが元に戻るまでの時間を制御する難しさ、体のどの部位でどれだけ効くかを見分ける測り方の確立、天然の成分に含まれる有効な分子を特定する作業の手間、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 中分子医薬品アミノ酸が十数個つながったペプチドなどを有効成分とする医薬品を指す。分子の大きさは従来の低分子医薬品と抗体医薬品の中間にあたり、体内の標的へ結合しやすい一方で、消化管の酵素に分解されやすい性質を持つ。

BeCellBarの強み|「タイトジャンクション」を研究

BeCellBarが「タイトジャンクション」を研究|今後は、相手の特定で低刺激の吸収が可能に|細胞のすきまを・一時的に開く/結合の相手を・分子で特定する

細胞のすきまを一時的に開く

これまでの吸収促進剤の多くは、細胞膜の流動性を高めることで薬を通してきました。膜そのものへ働きかけるため、粘膜への刺激が残る恐れがあります。

同社が狙うのは、細胞の結合を担うタンパク質の相互作用です。結合構造を裏側から支える「ZO-1」にはPDZドメイン(相手の端をつかむ溝)があり、ここへ化合物が入ると締まりの具合が変わる仕組みです。カンゾウ(甘草)の「グリチルリチン」がこの溝へ結合することはNMR(核磁気共鳴、分子の結合を観察する手法)で確かめられており、これが腸のタイトジャンクションが開く仕組みの一つとみられています。細胞膜を壊さずに通り道を確保する方式のため、粘膜への刺激を抑えながら吸収を高められると期待されています。

結合の相手を分子で特定する

天然のエキスから有効な成分を探す方法では、効果の有無は分かっても、どの分子が何に作用しているかまでは突き止めにくいままです。

同社は、化合物が結合するタンパク質を分子の段階で特定したうえで探索を進めます。用いるのは、タンパク質と化合物の結合をそのまま観察できるNMRです。オウゴン(コガネバナの根を用いる生薬)の「バイカレイン」は結合をゆるめる側、グレープフルーツの「ナリンゲニン」は結合を強める側として見つかっています。ゆるめる成分と強める成分を同じ手順で探し分けられる点が特徴です。どの成分がどこに効くかを先に押さえられるため、天然素材を扱う化粧品や食品の企業は、原料の使いどころを絞り込め、開発の時間を短縮できます。

FrontJournalの解説
  • ZO-1タイトジャンクションの内側に並び、結合構造を細胞の骨組みへつなぎとめる裏打ちタンパク質を指す。相手のタンパク質をつかむPDZドメインを複数持ち、ここへ化合物が結合すると結合の締まり具合が変わる。

タイトジャンクションの未来|医薬品から化粧品へ広がる

制御できるタイトジャンクションが変える未来|受託探索から医薬品と化粧品へ|受託探索を・すでに提供/スキンケア製品へ・応用が進む/注射に頼らない・投薬を目指す

受託探索をすでに提供

同社は、タイトジャンクションを制御する物質の受託探索をすでに提供しています。依頼元が持つ化合物ライブラリー(試験に用いる物質を多数そろえた収集物)や天然物の抽出エキスを預かり、結合をゆるめる物質と強める物質を分けて探します。ゆるめる物質は有用成分の吸収促進剤の候補、腸や肌のバリアを強める物質は整腸剤や保湿剤の候補です。同社は探索の結果を、依頼元の素材の活用方針として提案します。

スキンケア製品へ応用が進む

短期に実現が見込まれるのは、皮膚のバリアを整えるスキンケア製品です。このバリアを担うのは、表面の角質層と、その下の顆粒層(角質層のすぐ下にある皮膚の層)にあるタイトジャンクションです。同社が名古屋大学・新日本製薬と進めた共同研究では、フェルラ酸センブリエキスが顆粒層の結合をゆるめ、皮膚への透過を高めることが確かめられました。この成果をもとに、スキンケア製品への応用が予定されています。

注射に頼らない投薬を目指す

同社が目指すのは、注射に頼らない投薬の形を広げることです。皮膚や粘膜から入れる薬には分子の大きさの制約があり、中分子医薬品はここで止まってきました。この制約を超えられれば、創薬の現場で飲み薬や貼り薬、点鼻薬といった選択肢が広がる見込みです。通院して注射を受けてきた人が、自宅で治療を続けられる日に近づきます。

会社概要|構造解析の研究から生まれたBeCellBar

大学の構造解析から創業

合同会社BeCellBarは、名古屋大学で積み重ねられたタンパク質の立体構造解析の研究から生まれました。設立は2017年11月で、拠点は名古屋大学のインキュベーション施設です。具体的には、同大学大学院創薬科学研究科の構造分子薬理学分野が進めてきた、立体構造にもとづく医薬品設計の研究です。社名は「Beyond the Cell Barrier」(細胞のバリアを越えて)に由来します。代表社員の天野剛志氏は、同研究科の招へい教員を兼ねています。

採択・連携

同社は、設立時に東海広域5大学のベンチャー企業支援によるスタートアップ準備資金を受けています。2018年3月には名古屋大学のギャップファンド(研究成果を事業化する段階を支える資金)「MIRAI」を受賞しました。2020年には「HVC KYOTO 2020」のオンラインピッチに登壇しています。同年の「Hello Tomorrow Global Challenge」では「DEEP TECH PIONEER」に選ばれました。スキンケア分野では、名古屋大学とともに新日本製薬との共同研究を進めています。

受託研究と共同研究が柱

同社の主力サービスは、受託探索研究と製薬企業などとの共同研究の二本立てです。受託で見つかった成分は、依頼元の医薬品や化粧品の開発へ引き継がれます。共同研究のもう一方の柱は、投与法そのものを新しくする用途の開拓です。自社で発見した化合物については、すでに医薬品や食品で使われてきた成分を起点に再探索を進めています。

会社情報

会社名合同会社BeCellBar(BeCellBar LLC)
所在地〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町1番 名古屋大学インキュベーション施設(公式サイト会社概要の記載)
設立2017年11月21日
代表代表社員:天野 剛志(博士(理学)/名古屋大学大学院創薬科学研究科 招へい教員)。業務執行社員:廣明 秀一(博士(薬学)/名古屋大学教授 兼務)、濵田 大三(博士(理学))
資本金404万円(経済産業省「大学発ベンチャーデータベース」2025年度調査時点)
従業員正社員3名(経済産業省「大学発ベンチャーデータベース」2025年度調査時点)
事業タイトジャンクション制御剤の探索と共同研究。化合物ライブラリー・天然物抽出エキスからのバリア機能制御化合物の受託探索研究
技術領域NMR・蛍光分光による立体構造解析にもとづくタイトジャンクション制御化合物の探索(結合をゆるめる吸収促進と、結合を強めるバリア強化の両方向)
連携名古屋大学大学院創薬科学研究科 構造分子薬理学分野。新日本製薬(スキンケア分野の共同研究)
採択2017年11月 東海広域5大学ベンチャー企業支援スタートアップ準備資金。2018年3月 ギャップファンドMIRAI。2020年 Hello Tomorrow Global Challenge「DEEP TECH PIONEER」選出
URLhttps://www.becellbar.co.jp/public_html/wp/

編集後記|FrontJournal編集部より

薬を体へ届ける話は、長いあいだ分子そのものを作り替える方向で進んできました。届きにくいなら、届く形に変えます。その裏返しとして、通り道の側を開けるという選び方があることに、公開資料を読み進めるなかで気づかされました。

とりわけ印象に残ったのは、探し方の順番です。効いた成分を後から調べるのではなく、結合する相手のタンパク質を先に決めてから探しています。カンゾウやオウゴンといった昔から使われてきた素材が、立体構造の解析を通して分子の言葉で説明し直されていく過程は、読んでいて素直に面白いと感じます。

注射の回数が減る日が、どんな形で近づいてくるのかを見届けたいと思います。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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