2026.11.03 │ 福井県立大学・東北大学・産業技術総合研究所・科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.29

福井県立大学ら、高アルカリ度で酸性化による有孔虫の殻への悪影響を軽減

ニュース紹介

「高いアルカリ度が海洋酸性化による有孔虫の殻形成への悪影響を軽減~恐竜時代の海を手がかりに、海洋環境と石灰化生物の殻形成の関係を探る~」

福井県立大学 恐竜学部の木下峻一助教、東北大学、産業技術総合研究所の共同研究グループは、海の微小な生き物である有孔虫を用いた培養実験により、海水が酸を中和する能力の指標であるアルカリ度を高めると、低いpH(酸性化)による殻形成への悪影響が軽減されることを示しました。二酸化炭素濃度が高かった白亜紀の海で、炭酸カルシウムの殻や骨格を作る生き物が繁栄できた理由の1つと考えられる、海水の高いアルカリ度に着目した研究です。

研究グループは、海水のpHとアルカリ度を組み合わせた4条件で有孔虫を3カ月間培養し、重量測定とマイクロフォーカスX線CTにより殻の「量」と「質」を調べました。低pHでは殻の重量・体積・密度が低下しましたが、アルカリ度を同時に高めることで、その低下が大きく軽減されました。現代の海水に近いpHでアルカリ度を高めると、殻の重量と体積が増加する一方、密度は基準条件と同程度の水準でした。本研究成果は、2026年10月28日(日本時間)付で、科学誌「Scientific Reports」に掲載されました(DOI:10.1038/s41598-026-74230-y)。

出典:福井県立大学・東北大学・産業技術総合研究所・科学技術振興機構(JST) 2026年10月29日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261029-5/index.html

FrontJournalの解説

海洋酸性化と殻をつくる生き物

「海洋酸性化」は、人間活動で増えた二酸化炭素(CO₂)の一部が海に吸収され、海水のpHが下がる現象です。気象庁によると、サンゴや貝類などの石灰化生物(石灰質の殻や骨格を持つ生物の総称)は、海水中のカルシウムイオンと炭酸イオンから炭酸カルシウムの殻や骨格を作ります。酸性化で炭酸イオンの濃度が下がると、殻を作りにくい環境になります。

研究グループが着目したのは、恐竜が生きていた「白亜紀」の海です。当時は大気中のCO₂濃度が高く、海水のpHも現在より低かったと考えられていますが、石灰質の生き物は繁栄し、大規模な石灰質堆積物を残しました。プレスリリースは、岩石の風化などで海に供給された成分が、海水のアルカリ度(酸を中和する能力の指標)を高く保っていた可能性を挙げています。

①低pHの海水でもアルカリ度を高めると殻の重さが回復

研究グループは、沖縄の浅い海に生息する大型底生有孔虫「Amphisorus kudakajimensis」を、pHとアルカリ度を組み合わせた4条件で3か月間培養しました。同じ親から無性生殖で生まれた個体を使い、温度や光の条件もそろえています。培養後に殻の重量を量り、マイクロフォーカスX線CT(微小な試料の内部を壊さずに3次元で観察する分析法)で体積を求めて、重量を体積で割った密度も算出しました。

殻重量の中央値は、現代の海水を再現した基準条件で157µgでした。pHだけを下げた条件では約4分の1の40µgまで減りましたが、pHを下げたままアルカリ度を高めた条件では約140µgとなり、密度も基準条件と同程度の水準に戻りました。

②殻の「量」と「質」は異なる応答を示す

アルカリ度だけを高めた条件では、殻の重量と体積が4条件の中で最も大きくなり、殻重量の中央値は基準条件の約2.7倍(419µg)に達しました。一方で密度は基準条件と同程度の水準にとどまり、殻の「量」(重量・体積)と「質」(密度)は同じようには変化しませんでした。

殻の重量と体積は、炭酸カルシウム飽和度(炭酸カルシウムが形成・維持されやすい化学状態を示す指標)とよく対応していました。この結果から研究グループは、pHの値だけでなく、アルカリ度との組み合わせで決まる海水の化学的な状態が殻形成を左右すると考えています。

FrontJournalからのひとこと

大気中のCO₂を取り除く手法の一つに、海水のアルカリ度を高めてCO₂の吸収を促す「海洋アルカリ度強化」があり、研究が進んでいます。今回の成果は、その生物への影響を調べる際に、殻の量と密度の両方を評価する重要性を示しました。研究グループは今後、実験の再現性を確かめ、さまざまな種で同様の応答が見られるかを検証するとしています。過去の地球の海から将来の海を考える研究として、続く成果に注目します。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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