2026.08.04 理化学研究所 元発表:2026.08.03

理研、NK細胞とキラーT細胞の協調免疫を時空間的に解明 難治性がん治療へ(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「NK細胞とキラーT細胞の協調免疫機構の解明に成功―難治性腫瘍のための次世代のがんワクチンや免疫療法の設計に貢献―」

理化学研究所生命医科学研究センター免疫細胞治療研究チームの清水佳奈子上級研究員、藤井眞一郎チームディレクターらの研究グループは、NK細胞とキラーT細胞(CD8+T細胞)ががんの微小環境で時間的・空間的に連携する仕組みを明らかにした。ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原を発現するマウス腫瘍モデルで、人工アジュバントベクター細胞(aAVC-HPV)を投与した結果、まずNK細胞が腫瘍辺縁に集まってケモカインCCL5を産生して免疫細胞の集合場所をつくり、続いてキラーT細胞が腫瘍の縁に浸潤・凝集して殺傷活性を高めることを、1細胞RNAシーケンスと空間トランスクリプトーム解析で観察した。CCR5-CCL5経路とCXCR3-CXCL9経路が自然免疫と獲得免疫の連携を仲介し、免疫学的に「冷たい」腫瘍を炎症性で治療に応答する状態に変えた。マウス12匹中7匹で腫瘍が完全に消失した。研究成果は米国科学誌Cancer Researchのオンライン版に日本時間2026年8月3日に掲載された(DOI:10.1158/0008-5472.CAN-25-4957)。

出典:理化学研究所 2026年8月3日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20260804_1/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

がんに対する免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1抗体)やCAR-T細胞療法(患者のT細胞を体外で改変してがんを攻撃させる治療)の登場で急速に広がり、日本でも複数のがん種で保険適用が進んでいます。ただし全てのがんに効くわけではなく、腫瘍の中に免疫細胞がほとんど入らない「コールド腫瘍(免疫学的に冷たい腫瘍)」では効果が出にくいことが臨床の課題として残っています。免疫細胞は大きく分けて、生まれつき備わっている自然免疫(NK細胞など)と、学習して働く獲得免疫(キラーT細胞など)の2系統があり、これらが体内でどう連携してがんを攻撃するかは長年の研究テーマでした。次世代の免疫療法を設計するには、この連携をいつ・どこで起きているかまで含めて理解することが必要とされています。

①「どの細胞が、いつ、どこで」を空間解析で可視化した

今回の研究は、1細胞ずつの遺伝子発現を読む1細胞RNAシーケンスと、細胞の位置情報を保った状態で遺伝子発現を読む空間トランスクリプトーム解析を組み合わせて、腫瘍の中で何が起きているかを時間経過とともに追いました。その結果、まずNK細胞が腫瘍の縁に集まってCCL5という信号分子を出し、免疫細胞が集まる場所をつくること、続いてキラーT細胞がそこへ集まって塊をつくり、腫瘍を攻撃する状態に変わっていくことが分かりました。免疫細胞の役割分担が「NK細胞が場所をつくる → T細胞が来て攻撃する」という順序で成り立っていることを、分子レベルの証拠付きで示した点が新しい部分です。単に「NKとTが両方効いた」ではなく、経路と順序を特定した意義があります。

②「冷たい」腫瘍を治療応答性に変える設計指針

既存の免疫チェックポイント阻害薬は、腫瘍内にすでにT細胞が入っている「ホット腫瘍」で効きやすく、T細胞が入っていない「コールド腫瘍」では効きにくいことが知られています。今回の成果は、NK細胞を最初に動かして場所づくりから始めるという別の切り口を示すもので、コールド腫瘍を治療応答性に変える経路の一つになり得ます。研究グループはHPV陽性のがんを想定した人工アジュバントベクター細胞(aAVC-HPV)を使い、マウス12匹中7匹で腫瘍を完全に消失させました。実用化にはヒトへの安全性・有効性検証が必要ですが、CCL5やCXCL9といった具体的な分子経路が示されたことで、標的を絞った次世代がんワクチンや免疫療法の設計に使える基盤になります。

編集部からひとこと

免疫療法は「効く人には劇的に効くが、効かない人には効かない」という臨床の実感が長く残っていました。今回のように「なぜ効かないのか」を空間と時間の両方で追える解析技術が揃ってきたことで、失敗の理由が具体的な分子経路として説明できるようになってきています。医療機関やバイオ企業の視点で読むと、単一の抗体・単一の細胞に賭ける戦略から、複数の免疫細胞の連携を意図的に設計する戦略への転換点として位置づけられそうです。難治性がんへの応用は臨床試験まで距離がありますが、方向性は見えてきています。

プレスリリース原文を読む ↗

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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