2026.08.04 理化学研究所・関西学院大学 元発表:2026.08.04

理研ら、腸細胞が栄養の種類ではなく総量を感じ取る仕組みを解明(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「栄養の質ではなく、量を感じる腸細胞」

理化学研究所生命機能科学研究センター動的恒常性研究チームのユ・サガンチームディレクター(関西学院大学大学院理工学研究科客員准教授)、中村友奏研修生(研究当時、関西学院大学大学院理工学研究科博士課程前期課程)、森川源大大学院生リサーチ・アソシエイト、高野智美テクニカルスタッフⅠらの研究グループは、ショウジョウバエを用いて、栄養素の種類ではなく総量が「細胞質の流動性」として腸細胞に感知され、細胞の生死が決まる仕組みを明らかにした。腸は栄養素を吸収する器官であり、腸細胞は栄養条件の変化に適応する仕組みを備えているが、従来は栄養素の種類ごとに異なる分子機構で感知されると考えられてきた。実験では低アミノ酸条件(29.6ミリモーラー)と高アミノ酸条件(592ミリモーラー)を比較した。成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に2026年8月3日の週に掲載された。論文タイトルは「Cytoplasmic fluidity couples nutrient availability and enterocyte fate in vivo」。研究グループは今後、細胞質の流動性がどのような分子機構でエレボーシスにつながるのかの解明と、哺乳類への応用可能性の検証を目指すとしている。

出典:理化学研究所 2026年8月4日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20260804_2/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

生き物が栄養を感じ取る仕組みは、これまで栄養素の種類ごとに調べられてきました。アミノ酸にはアミノ酸のセンサー、糖には糖のセンサーがあり、それぞれ別の分子経路で細胞に伝わるという考え方です。一方で、この研究グループが対象にしている腸細胞には、エレボーシスという細胞死が知られています。2022年に同グループが報告したもので、アポトーシスやネクローシスとは異なり、炎症を起こさずに静かに細胞が消えていく点が特徴です。腸のように細胞が絶えず入れ替わる組織で働いていると考えられています。

①種類ではなく総量が効いていた

今回の結果は、栄養素の種類ごとに感知するという従来の枠組みとは別の層があることを示しています。腸細胞が読み取っていたのは、栄養素の総量でした。しかもその読み取り方が、細胞質の流動性という物理的な状態を介していた点が特徴です。細胞の中は水に溶けたタンパク質などが詰まった環境で、詰まり具合が変われば分子の動きやすさも変わります。研究グループは低アミノ酸(29.6ミリモーラー)と高アミノ酸(592ミリモーラー)を比較し、この流動性の違いが細胞の生死につながることを示しました。個別のセンサー分子ではなく、細胞内の物理状態が情報を担っているという見方になります。

②ショウジョウバエから哺乳類へ確かめる段階

今回の実験はショウジョウバエで行われています。ハエの腸はヒトの腸と共通する仕組みを多く持ち、遺伝子操作がしやすいため、腸の研究では標準的に使われるモデル生物です。ただし今回の仕組みが哺乳類でも同じように働くかは、これから確かめる課題として残っています。研究グループは、細胞質の流動性がどのような分子機構でエレボーシスにつながるのかの解明と、哺乳類への応用可能性の検証を挙げています。栄養状態と腸の細胞の入れ替わりを結ぶ経路が分かれば、腸の不調や栄養条件と病気の関係を考える土台になります。

編集部からひとこと

センサー分子を探すという発想から離れて、細胞の中の物理的な状態そのものが情報になっているという話でした。分子生物学の教科書的な説明とは角度が違うので、読んでいて面白い部分です。栄養の種類ではなく総量というのも、食事の内容ではなく総カロリーを見ているような話に思えて、直感的にも分かりやすい結果でした。ハエの結果がそのままヒトに当てはまるわけではありませんが、腸の細胞が入れ替わる仕組みは共通点が多い領域です。哺乳類での検証を待ちます。

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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