2026.11.04 │ 東京大学・ENSTA Paris │ 元発表:2026.10.28

東京大学ら、リチウム金属電池の保護膜形成を可視化

ニュース紹介

「リチウム金属電池の保護膜形成をシミュレーションで可視化 ―原子レベルで解き明かした保護膜形成メカニズム―」

東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授、竹中規雄特任講師、岩田大河大学院生(研究当時)、ENSTA Parisの Théophane Bernhard 大学院生(研究当時)らの研究グループは、第一原理計算結果を学習した機械学習力場による分子動力学(MD)シミュレーションと、自動反応解析手法を組み合わせることで、リチウム金属電池の性能を左右する保護膜である固体電解質界面(SEI)の初期形成過程を原子レベルで解析しました。約4,000原子からなる界面モデルを用いることで、従来の第一原理分子動力学計算では困難であった規模と時間スケールで、電解液の分解反応とSEI形成を追跡する計算手法を確立しました。

本研究では、電解液成分がリチウム金属表面で分解していく過程を追跡するとともに、シミュレーション中に生じる結合の生成・切断を自動的に検出し、反応経路を体系的に抽出しました。また、リチウム金属表面近傍にLi₂O、その外側にLiFが分布する傾向を明らかにし、実験で報告されているSEIの空間構造と整合する結果を得ました。

出典:東京大学 2026年10月28日 プレスリリース/掲載誌:npj Computational Materials/DOI:10.1038/s41524-026-02271-y
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2026-10-28-001

FrontJournalの解説

リチウム金属電池と保護膜(SEI)

今回の研究は、次世代の蓄電池として期待される「リチウム金属電池」の、電極表面にできる保護膜のでき方を計算で示したものです。プレスリリースによると、リチウム金属電池は現在広く使われているリチウムイオン電池より高いエネルギー密度を実現でき、電気自動車や再生可能エネルギーの蓄電システムを支える電池として期待されています。

リチウム金属は非常に反応性が高く、電解液と接触すると電解液が分解して、電極の表面に「固体電解質界面」(SEI)ができます。SEIは電子の移動を抑えながらリチウムイオンを通してリチウム金属表面を守り、その組成や構造で電池の寿命や安全性が大きく左右されます。ただし、SEIは電極と電解液の境目でできるため、できる過程を実験で直接観測するのは困難でした。

①機械学習力場で、約4,000原子の界面を追跡

研究グループは、第一原理計算(原子や電子の振る舞いを基本法則から計算する手法)の結果を学習した「機械学習力場」を使い、約4,000原子のリチウム金属と電解液の界面をシミュレーションしました。従来の第一原理分子動力学計算では難しかった規模と時間スケールです。

さらに、シミュレーションの中で原子間の結合ができたり切れたりするのを自動で検出し、多数の反応生成物や反応経路を網羅的に抽出する解析手法も開発しました。

②電解液の組成でSEIの構造が変わる

解析では、電解液の組成によって、リチウム金属の表面で優先して分解する成分が変わり、できる初期保護膜の組成や空間構造も大きく変わることが明らかになりました。LiFSI/EC高濃度電解液(モル比1:1.5)では、Li₂Oがリチウム金属の表面近くに、LiFがその外側に分布しました。この結果は、LiFSI系電解液のSEIについて実験で報告されている観測結果と整合しています。

今後の展望として、この手法はリチウム金属電池に限らず、さまざまな電極材料と電解液の界面の反応解析に使えるとされています。

FrontJournalからのひとこと

実験では見えにくい電解液の分解からSEIができるまでを、約4,000原子の規模で追った点が今回の特徴です。電解液の組成とSEIの関係を原子レベルで読み解く方法が、電解液や界面の設計にどう使われていくか、注目しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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