2026.10.01 │ 東京理科大学ら │ 元発表:2026.10.01

東京理科大学ら、Tsai型化合物の磁気状態を格子定数で整理

ニュース紹介

「Tsai型化合物の磁気状態を統一的に読み解く鍵は「格子定数」~未知の磁気秩序をもつ準結晶・近似結晶の探索に新たな指針~」

東京理科大学のFarid Labib助教、田村隆治教授、東北大学の那波和宏准教授らの研究グループは、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)を含むTsai型1/1近似結晶を新たに合成し、磁化測定、X線回折測定、中性子回折測定、中性子非弾性散乱実験を行いました。これまで化学組成や希土類元素の異なる物質の磁気状態の整理には価電子濃度が用いられてきましたが、合金系によって磁気相の境界値が異なり、統一的な説明が不十分でした。今回、格子定数が約14.72Åを超える領域では反強磁性、約14.62〜14.72Åでは強磁性、それより小さい領域ではスピングラスとなる共通の磁気相図が見いだされました。研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されています(2026年9月30日)。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年10月1日 共同発表(掲載誌:Journal of the American Chemical Society/DOI: 10.1021/jacs.6c05709)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261001/index.html

FrontJournalの解説

「Tsai型近似結晶」と磁気状態とは

今回の発表に出てくる言葉について、東北大学の発表資料は次のように説明しています。「近似結晶」は、準結晶の局所的な原子配列に似た構造をもつ周期的な結晶で、準結晶の性質を調べる際の比較対象として使われます。「スピングラス」は、磁気モーメントがランダムな向きで凍結した磁気状態を指します。

希土類元素の磁気モーメントの間には、伝導電子を介して働く「RKKY相互作用」(伝導電子を介して磁気モーメント間に働く相互作用)が作用し、原子間の距離や電子状態によって強磁性にも反強磁性にもなりうるとされています。近似結晶では、この相互作用の競合によって多様な磁気状態が現れると考えられています。

①価電子濃度から格子定数へ

従来、磁気状態の整理には価電子濃度(e/a)が使われてきましたが、合金系によって磁気相の境界値が異なり、統一的な説明にはなっていませんでした。今回の研究では、新たに合成した近似結晶の測定結果を既存のデータとあわせて整理し、格子定数が元素の種類や化学組成を超えて磁気基底状態を記述できる指標であることが示されました。発表では、格子定数は単なる構造パラメーターではなく、電子状態や磁気相互作用と密接に関連する指標だと示唆されています。

②探索の指針として期待される点

発表では、これまで試行錯誤に頼ることの多かった準結晶・近似結晶の物質探索に、格子定数に基づく設計指針が与えられたと位置づけています。この指針をもとに、反強磁性準結晶やヘッジホッグ型磁気構造など、未知の磁気秩序を示す新物質の発見が期待されるとしています。なお、本研究は戦略的創造研究推進事業CRESTおよび創発的研究支援事業の支援を受けて行われました。

編集部からひとこと

今回の発表は、Tb・Dy・Hoを含むTsai型1/1近似結晶についての結果であり、他の系や準結晶そのものにどこまで当てはまるかは、発表内容では言及されていません。また、反強磁性準結晶などの新物質は「発見が期待される」段階であり、実現したものではありません。格子定数という測りやすい量で磁気状態を見通せる点は、物質探索の参考データになる可能性があります。詳細な測定条件や図は、JSTの公式ページおよびJournal of the American Chemical Society掲載論文をご参照ください。

FrontJournal編集部

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