2026.09.30 │ 理研・東京科学大学 │ 元発表:2026.09.29

理化学研究所、がん細胞が生む一酸化炭素から細胞内で抗がん剤を合成

ニュース紹介

「がん細胞が生む一酸化炭素から抗がん剤合成に成功-がんを選択的に治療する生体内合成化学治療への応用に期待-」

理化学研究所(理研)開拓研究所 田中生体機能合成化学研究室の田中克典主任研究員(東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 教授)らの研究チームは、がん細胞が過剰に産生している代謝物である一酸化炭素(CO)を原料として、がん細胞の中で抗がん剤を合成することにより、がん細胞の増殖を抑制することに成功しました。

研究チームは、アルブミンと呼ばれるタンパク質の疎水性ポケット内部にパラジウム錯体を固定した「アルブミン-パラジウム複合体」を開発しました。生体内では不安定なパラジウム錯体をアルブミンで保護することで、がん内因性の一酸化炭素を捕捉・活性化し、フェナントリジノン誘導体と呼ばれる抗がん剤へと変換できるようになりました。

本研究成果は、がんを選択的に治療する「生体内合成化学治療」への応用が期待されます。論文は科学雑誌「Nature Communications」オンライン版(9月17日付)に掲載されました。

出典:理化学研究所 2026年9月29日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20260929_2/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

抗がん剤による化学療法は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも作用するため、副作用が避けられないという課題があります。田中主任研究員らは、フラスコの中で行う有機合成の反応を体の中の患部で起こし、薬をその場でつくる手法を「生体内合成化学治療」と名付けて研究してきました。

これまでは、がん細胞が多く出す代謝物アクロレインを原料に使ってきました。今回はその原料を一酸化炭素に広げています。一酸化炭素は有毒なガスとして知られる一方、体内では少量が信号を伝える分子として働いており、がん細胞では正常な細胞より多く産生されていることが分かってきました。

①アルブミンで触媒を守る

一酸化炭素を薬の骨格に組み込むには、パラジウムなどの金属を中心とした遷移金属錯体が欠かせません。ところが体内には、金属に強く結合して反応を止めるグルタチオンが多く存在します。

研究チームは、パラジウム錯体にトリフェニルホスフィンを取り付け、アルブミンの疎水性ポケットに取り込ませました。このアルブミン-パラジウム複合体は、グルタチオンが20倍量ある水溶液の中でも反応性を失わず、一酸化炭素からフェナントリジノンを形成できたとしています。

②がん細胞でだけ薬ができた

改良した複合体をヒトの細胞に投与し、48時間後に中身を分析しました。肝臓がん・子宮頸がん・乳がん・肺がんの細胞では目的の分子が多く検出され、正常な乳腺細胞ではほとんど検出されませんでした。

さらに、強い抗がん活性を持つオキシニチジン誘導体を細胞内で合成する複合体も設計しました。乳がん細胞では10マイクロモーラー以上の濃度でコロニーの形成をほぼ完全に阻害し、正常な乳腺細胞にはほとんどダメージを与えなかったと報告しています。

編集部からひとこと

今回の成果は培養細胞での実証で、動物や人での効果はこれからの検証になります。研究チームは、がん以外の病気でも特有の代謝物を原料に薬をつくる方向を示しています。副作用の少ない治療につながるかどうか、次の段階の報告に注目します。

FrontJournal編集部

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