2026.09.21 京都大学 元発表:2026.09.10

京都大学ら、交替磁性体CrSbで結晶方位に依存するスピントルクを実証

ニュース紹介

「エピタキシャルCrSbが生み出す結晶学的スピン軌道トルク―結晶方位を利用した次世代スピントロニクスデバイスへ―」

京都大学化学研究所の輕部修太郎特定准教授、小野輝男教授、佐藤良太特定助教、寺西利治教授、研究当時は博士後期課程学生だったTseng Chih-Hsiang氏らの研究グループは、米国ネブラスカ大学リンカーン校のKirill Belashchenko教授、日本電気の矢作裕太研究員と共同で、交替磁性体として注目されるCrSbにおいて、電流が磁化に与えるスピントルクの大きさと方向が結晶方位に強く依存することを明らかにしたと発表しました。結晶方位を制御したCrSb薄膜をエピタキシャル成長し、スピントルク強磁性共鳴測定で2つのCrSb結晶面を比較した結果、従来のスピンホール効果では説明できないトルク成分を観測しました。その主要な起源は、交替磁性固有の効果ではなく、CrSbと強磁性体の界面の結晶・界面対称性にあることを示しています。トルク効率はPtやTaなどの重金属に匹敵します。成果は国際学術誌Advanced Functional Materialsにオンライン掲載されています(DOI: 10.1002/adfm.77835)。

出典:京都大学化学研究所 2026年9月10日 研究トピックス/掲載誌:Advanced Functional Materials
https://www.kuicr.kyoto-u.ac.jp/sites/topics/260910_2/

FrontJournalの解説

磁化を電気で動かすスピントルク

スピントルクは、電子のスピン角運動量が磁性体の磁化に受け渡されることで生じる、磁化を動かす力です。スピン軌道相互作用を利用して電流から生じるものはスピン軌道トルクと呼ばれ、磁化の向きを電気的に制御するために使えます。研究グループは、交替磁性体と呼ばれる新しい磁性相の材料CrSbで、このトルクを調べました。

①結晶の向きをそろえた薄膜

交替磁性体は、反強磁性体のように原子レベルの磁気モーメントが互いに反対方向を向いて全体の磁化が打ち消し合う一方、電子のエネルギーバンドには強磁性体に似た大きなスピン分裂が現れる磁性相です。結晶の対称性とスピンの状態が強く結び付いている点が特徴です。研究グループは、基板の結晶に原子配列をそろえて薄膜を成長させるエピタキシャル成長で、CrSbの結晶方位を制御しました。

②トルクの起源は界面の対称性

2つのCrSb結晶面をスピントルク強磁性共鳴測定で比較すると、従来のスピンホール効果では説明できないトルク成分が観測されました。その主要な起源は交替磁性固有の効果ではなく、CrSbと強磁性体の界面の結晶・界面対称性にあると示されました。トルク効率はPtやTaなどの重金属に匹敵し、結晶の向きを新たな設計自由度として使うスピントロニクスデバイスや、将来の磁気ランダムアクセスメモリへの応用に向けた指針になるとしています。

編集部からひとこと

今回の成果は薄膜での基礎的な実証であり、デバイス化磁気ランダムアクセスメモリへの実装時期には言及していません。結晶の向きを設計の自由度として使えるという指針は、材料の選び方の幅を広げる視点として注目されます。詳細は京都大学化学研究所の公式発表およびAdvanced Functional Materials掲載論文をご参照ください。

FrontJournal編集部

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