2026.08.04 琉球大学・近畿大学・順天堂大学・理化学研究所 ほか 元発表:2026.08.03

琉球大ら、がん細胞が酸化ストレスを防ぐ経路を特定し治療標的として提示(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「がん細胞が酸化ストレスから身を守り生存する仕組みを発見~防御を断ち細胞死を促進する新たながん治療標的として期待~」

琉球大学の藤川由美子助教、近畿大学の山下暁朗教授、順天堂大学の大野茂男特任教授(研究組織当時は横浜市立大学)、理化学研究所の吉田稔ユニットリーダーらの研究グループは、東北大学、産業技術総合研究所とともに、細胞内の活性酸素を取り除く仕組みに関わる2つの酵素を明らかにした。SMG1およびDNA-PKが、酸化ストレスから細胞を守る転写因子として知られるNRF2を直接リン酸化し、細胞内の活性酸素を取り除くことを示した(SMG1/DNA-PK―NRF2経路)。酸化ストレスは老化や炎症疾患、がんの発生に関わり、治療に抵抗を示す難治性のがんは酸化ストレスに抵抗する能力が高いことが知られている。SMG1またはDNA-PKを阻害すると、がん細胞では活性酸素が過剰に蓄積し、主にフェロトーシスを介してがん細胞の生存率が選択的に低下した。成果は2026年8月3日(英国時間)に学術誌Signal Transduction and Targeted Therapy(STTT)に掲載された。論文タイトルは「Two stress-responsive kinases suppress ferroptosis by activating antioxidant programs under mild oxidative stress」、DOIは10.1038/s41392-026-02892-1。研究はJSTムーンショット型研究開発事業 目標2(JPMJMS2022)の支援を受けて行われた。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年8月3日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260803/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

細胞は呼吸などの過程で活性酸素を生み出し、同時にそれを取り除く仕組みを持っています。この取り除く側の司令塔が転写因子NRF2で、抗酸化に関わる多くの遺伝子をまとめて働かせます。ところが、がん細胞はこの防御の仕組みを自分の生存のために使うことがあり、NRF2が過剰に働くタイプのがんは治療が効きにくいことが知られています。防御を強めるのではなく、逆に断つという発想の治療研究が続けられてきました。

①防御の司令塔を動かす2つの酵素が分かった

今回の成果は、NRF2そのものではなく、NRF2を働かせる側にあたるSMG1とDNA-PKという2つの酵素を特定した点にあります。この2つがNRF2を直接リン酸化することで、細胞内の活性酸素が取り除かれます。標的が酵素であることは実務的な意味を持ちます。酵素は薬で働きを止めやすい種類のタンパク質で、SMG1もDNA-PKも他の研究分野で阻害剤の開発が進んできた経緯があるためです。防御の入口を1つ手前で押さえるという構図が見えたことになります。

②正常細胞ではなくがん細胞が選ばれて死ぬ

発表で重要なのは、阻害したときの効き方です。SMG1またはDNA-PKを止めると、がん細胞では活性酸素が過剰に溜まり、主にフェロトーシスと呼ばれる細胞死を介して生存率が選択的に低下しました。フェロトーシスは鉄と脂質の酸化が関わる細胞死で、アポトーシスとは別の経路として研究が進んでいる分野です。もともと酸化ストレスに強く依存しているがん細胞ほど、防御を外したときの打撃が大きくなるという理屈になります。研究グループは、発生初期のがんや既存の治療に抵抗を示すがんへの新しい治療戦略につながると述べています。ヒトでの有効性や安全性の確認はこれからの段階です。

編集部からひとこと

がんの薬を考えるとき、増殖を止める方向の話が多いのですが、この研究は守りを外す方向です。しかも標的が酵素なので、創薬の道具立てがすでにある領域につながります。読んでいて実務的だと感じたのは、正常細胞ではなくがん細胞の側が選択的に弱るという点でした。副作用の見通しに直結する部分です。ムーンショットの目標2は超早期の予測・予防を掲げており、発生初期のがんに触れているのはその文脈だと読めます。

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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