2026.08.09│科学技術振興機構(JST)│元発表:2026.08.06
東大ら、分子の整列と結晶変形が連動する「協奏的超構造」を発見
ニュース紹介
「分子の"集団的ふるまい"が結晶を動かす~分子の整列と結晶の変形が手を取りあう新しい状態「協奏的超構造」を発見~」
東京大学生産技術研究所の金澤直也准教授、松岡秀樹特任助教、東京大学大学院工学系研究科の植田大雅大学院生、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鬼頭俊介助教、有馬孝尚教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の中村唯我研究員らの研究グループは、無機層状結晶の層間に有機分子を挿入した「分子インターカレーション超格子」において、分子の整列と無機結晶の長周期な変形が同時に現れる新しい状態「協奏的超構造(Cooperative Superstructure:CSS)」を発見しました。研究グループは、層状結晶NbSe₂(二セレン化ニオブ)の層間に有機分子を挿入し、放射光X線回折などによりこの現象を捉えました。この相転移は分子のゆるやかな集団運動に律速されるため、冷却速度を制御することで秩序状態と凍結した無秩序状態を作り分けられることも示されました。研究成果は「Science Advances」に2026年8月5日付で掲載されました。
出典:科学技術振興機構(JST) 2026年8月6日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260806/index.html
FrontJournalの解説
この研究分野について
層状の無機結晶(グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなど)は、シートを積み重ねた構造を持ち、層と層の間に別の分子や原子を差し込む「インターカレーション」で電気・磁気の性質を変えられることが知られています。これまでの分子インターカレーションの研究は、個々の分子が結晶に与える効果に注目することが多く、多数の分子が集団としてどう振る舞い、結晶構造そのものにどんな変形を引き起こすかは十分に分かっていませんでした。
NbSe₂は、超伝導や電荷密度波(結晶中で電子密度が周期的に強弱を作る現象)が現れる層状の量子材料で、基礎物理と応用の両面で注目されている素材のひとつです。この結晶を、有機分子のふるまいと組み合わせて設計する視点が、今回の研究の起点になっています。
①「分子の整列」と「結晶の変形」が連動する新状態
研究グループは、NbSe₂結晶の層間に有機分子を挿入したうえで、分子の集団的な整列と結晶の周期的な変形が同時に現れる状態を観察しました。分子の配列と結晶格子の周期のわずかな不整合から、モアレのような超構造が生じます。ソフトマター(分子集団)と量子材料(無機結晶)が互いに影響し合う相転移として、「協奏的超構造(CSS)」と名付けられました。
②冷却速度で秩序と凍結無秩序を作り分ける
この相転移は、分子側のゆるやかな集団運動によって進む速さが決まります。そのため、冷却する速度を変えるだけで、分子が規則正しく並んだ平衡状態と、無秩序な状態を凍結した準安定状態を作り分けられることが示されました。温度操作で材料の状態と機能を切り替える、ハイブリッド界面の設計につながる知見と説明されています。研究はJST創発的研究支援事業、戦略的創造研究推進事業(CREST、さきがけ)、日本学術振興会科研費などの支援を受けて行われました。
編集部からひとこと
無機結晶と有機分子は、これまで別々の学問分野で扱われてきました。今回の成果は、そのあいだにある「集団としての分子」がもたらす効果を、結晶の変形と結び付けて示した点が特徴です。冷却速度で状態を作り分けられるという性質は、材料としての設計自由度を高めます。基礎現象の解明という段階ではありますが、量子材料と有機化学を橋渡しする研究の方向性として今後の展開に注目したい成果です。
本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。
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