2026.08.09│科学技術振興機構(JST)│元発表:2026.08.06
理研・京大ら、光合成細菌の菌体を有機質窒素肥料として実証
ニュース紹介
「環境フレンドリーな微生物由来窒素肥料を開発~海洋性紅色光合成細菌の窒素肥料効果と環境負荷の解明~」
理化学研究所環境資源科学研究センターの沼田圭司チームディレクター(京都大学大学院工学研究科/地球環境学堂教授)と京都大学成長戦略本部の中﨑鉄也特任教授、京都大学大学院農学研究科附属農場の中野龍平教授らの共同研究グループは、海洋性の紅色光合成細菌「Rhodovulum sulfidophilum」由来の微生物バイオマスが、既存の農業生産システムの中で環境フレンドリーな有機質窒素肥料として有効に機能することを実証しました。ブロッコリー圃場での実験では、この微生物バイオマスがゆっくりと安定的に窒素を放出することで作物収量を維持・向上させつつ、亜酸化窒素(N₂O)の排出を削減できることを確認しました。土壌中の微生物バイオマスがどのように無機化され、亜酸化窒素の発生メカニズムに関わるかを解明した初の研究とされています。研究成果は「npj Sustainable Agriculture」に掲載されました。
出典:科学技術振興機構(JST) 2026年8月6日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260806-4/index.html
FrontJournalの解説
この研究分野について
窒素肥料は農業の生産性を支える一方で、大きな環境負荷の原因にもなっています。日本の環境省の資料によれば、亜酸化窒素は二酸化炭素の約298倍の温室効果を持ち、農耕地からの排出が国内のN₂O人為排出量の相当割合を占めています。加えて、無機肥料の生産や輸入に伴う資源制約、土壌への蓄積・流出による水質への影響も指摘されており、収量を維持しながら環境負荷を下げる代替肥料の開発が政策・現場双方の課題になっています。
従来の有機肥料(家畜ふん堆肥など)は環境負荷を下げる選択肢ですが、窒素含有量が低く、施用量が多くなることでかえって温室効果ガスが多く発生する場合があります。今回の研究は、微生物のバイオマス自体を肥料として活用する方向性で、この課題に対するひとつの答えを提示しています。
①ゆっくり安定的に窒素を放出する仕組み
研究グループは、海水中で育つ紅色光合成細菌「Rhodovulum sulfidophilum」のバイオマスを窒素肥料として使う方法を検討しました。ブロッコリーを用いた圃場実験の結果、この微生物バイオマスはゆっくりと安定的に窒素を放出し、作物の収量を維持・向上させることを確認しました。同時に、亜酸化窒素の排出を削減できることも示されました。土壌中で微生物バイオマスがどのように無機化され、N₂Oの発生メカニズムに関わるかを解明した点は、初の研究成果と説明されています。
②温室効果ガス削減と窒素肥料の国産化への意義
本成果は、農業生産現場での温室効果ガス削減と、日本が輸入に頼っている窒素肥料の国産化の両面で貢献が期待されます。研究は、JSTの共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の「ゼロカーボンバイオ産業創出による資源循環共創拠点」の支援を受けて実施されました。海洋性の光合成細菌を扱うため、陸上の水資源や耕作地を圧迫しにくい原料である点も、資源循環型の産業に向けた検討課題として重要になります。
編集部からひとこと
環境負荷の低い肥料の議論は「有機か無機か」の二項対立で語られがちですが、有機肥料もN₂O排出という別の問題を抱えます。今回の研究は、微生物のバイオマス自体を素材として設計する第三の道を示すもので、収量と環境負荷を同時に見る評価軸を整えた点に意味があります。実用化に向けては、生産コスト、供給量、地域や作物ごとの効果の再現性、既存の農業システムへの適合性が今後の焦点になりそうです。
本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。
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