2026.08.07 大阪大学・東京大学・科学技術振興機構(JST) 元発表:2026.08.06

阪大ら、空間光イジングマシン向けの新モデル「spQUBO」を提案

ニュース紹介

「共同発表:『光が得意な問題』を解く新たな計算モデルを提案~大規模組合せ最適化の効率化に向けた新手法~」

大阪大学 大学院情報科学研究科の鈴木秀幸 教授(情報数理学)と、当時同研究科助教の山下洋史 東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構 特任講師らの研究グループは、組合せ最適化問題を光の性質を活用して効率的に解く空間光イジングマシン(SPIM)に適した新しい計算モデル「spatial QUBO(spQUBO)」を提案した。これまで空間光イジングマシンで実問題を扱うには多重化などの複雑な実装が必要だったが、本研究により多くの大規模な実問題に直接的かつ効率的に適用できる可能性を示したという。成果は英科学誌「Communications Physics」(Nature Portfolio)に2026年7月29日付(現地時間)で掲載された。

出典:大阪大学・科学技術振興機構(JST)共同発表 2026年8月6日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260806-5/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

組合せ最適化問題は、配送ルートの決定、工場の生産スケジュール、通信ネットワークの割り当てなど、産業や社会の随所に現れます。変数が増えるほど組合せが爆発的に増え、汎用の計算機では時間がかかる問題として知られてきました。この問題を高速に解く方法の一つとして注目されているのが、物理現象の性質を計算に使うイジングマシンです。イジングモデル(磁石のスピンのふるまいを記述する物理モデル)にあてはめて解くと、変数間の関係を並列にまとめて評価できます。

イジングマシンには複数の実装方式があり、超伝導量子ビットを使うもの、光を使うもの、CMOS回路で模したものなどがあります。このうち空間光イジングマシン(Spatial Photonic Ising Machine、SPIM)は、レーザー光と空間光変調器(SLM)を組み合わせて多数のスピン相互作用を一度に計算する方式で、原理的に大規模化と高速化の両立が期待されてきました。ただし、実問題をこの機械にそのまま載せるのが難しく、多重化などの実装上の工夫が必要でした。

①「光で解きやすい問題の形」を数式で定義した

研究グループは、空間光イジングマシンが得意とする問題の形をspatial QUBO(spQUBO)という新しい計算モデルとして定義しました。QUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization、二次無制約2値最適化)は、イジングマシン系で広く使われる標準的な定式化です。spQUBOはそこに「空間的畳み込み構造」という条件を加え、変数どうしの相互作用がSPIMの光学系にそのまま対応するように整理しました。この整理により、任意のspQUBOは二次元のspQUBOに簡約でき、多重化なしにSPIMで実装できることが示されました。「どんな問題でも高速に解ける」ではなく、「どの形の問題なら光で効率的に解けるか」を理論的に切り分けたところが要点です。

②物流・交通・エネルギーの最適化への橋渡し

研究グループは、実問題をspQUBOの形に変換するアルゴリズムも合わせて開発したとしています。SPIMは1万変数規模の大規模な組合せ最適化問題にも効率的に取り組める可能性が期待されている方式で、この変換手順があれば物流や交通、エネルギー管理といった応用先の問題を、機械が扱いやすい形に落とし込んで解くことが視野に入ります。研究はJSTの戦略的創造研究推進事業ALCA-Next「グリーンコンピューティング・DX領域」の支援を受けており、社会や産業システムの最適化を通じたエネルギー効率の改善やカーボンニュートラルへの寄与も掲げられています。今回はあくまで計算モデルと変換手法の提案であり、実機での大規模ベンチマークは今後の課題です。

編集部からひとこと

「光で計算すると速い」という話はしばしば聞きますが、実際にどの問題なら光の強みが生きるのかは意外と整理されてきませんでした。今回の発表は、性能自慢よりも「得意な問題の範囲を線引きした」という理論的な仕事で、応用側からすると自分の問題がその範囲に入るかを確かめる手掛かりになります。イジングマシン全般でも、超伝導量子アニーラ、CMOS実装、光実装が並行して発展しているなかで、方式ごとに向き不向きが明らかになっていくフェーズに入りつつあります。物流や交通の最適化は、AI推論と並んで電力消費が伸びる領域でもあり、計算モデルの側から効率化に手を伸ばす取り組みは今後も注目したいテーマです。

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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